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2015年03月01日

イノベーションを「生む組織」「潰す組織」

今回はイノベーションと組織について話します。日本の企業でイノベーションがうまく進展しない原因は、人よりも組織にあるとよく言われます。例えば、iPhoneやiPodのアイデアは実は日本企業の技術者ももっていたという話を聞きますが、組織としてイノベーション実現に至っていません。日本でイノベーションが起りづらいのは、組織が「価値ある着想や能力ある人材の思いを摘んでしまうから」であり、「出る杭を打つ」傾向があることも大きな要因のひとつです。

では、どんな組織であればいいのでしょうか?イノベーションを「生む組織」「潰す組織」には、一般的に表1に示すような観点の違いがあると言われます。

表1 イノベーションと組織環境
表1 イノベーションと組織環境

① 試行錯誤
以前「イノベーション・プロセスは、試行錯誤によって進めて行くスパイラルなアプローチが取られる」と述べました(2014年12月)。このように、イノベーションを生むには、失敗を許容し、失敗から学び、新たにアイデアを出すことを当たり前とする組織文化が不可欠です。逆に、一度失敗するだけで変なレッテルが貼られてしまい、会社の中で再度チャレンジすることが難しくなるような組織文化の場合は、イノベーションに取り組もうとする風土がなかなか培われません。

② 人材構成
イノベーションは多様な専門性や考え方を持つ人の協働作業を通して生まれるものと言われています。同じ価値観や経験を持つ人を集めた組織では、アイデアや考え方なども同質になりがちです。多様な人材が交わることで化学反応を起こし、斬新なアイデアを生むのです。従って、イノベーションを促進する組織は、様々な専門性やバックグラウンドを持った人たちを集めることが必要です。どちらかというと日本の組織は、組織の一体化や仲間意識を大切にする傾向がありますが、これは同質性を強要し、そこに合わない人を排他する危険性があります。多様な価値観や考え方を持つ人を受入れられるように、オープンな組織文化を醸成していく必要があります。

③ パワー・ディスタンス・インデックス
パワー・ディスタンス・インデックス(以下PDI)とは、組織における「権力格差の指数」を意味します。PDIの高い組織では上司と部下の格差が大きく、例えば「上司の意見に逆らわない」、「上司が明らかに間違ったことを言っても黙っている」という雰囲気が支配的になります。このように、PDIが高い組織では、せっかく新たなアイデア、価値あるアイデアを発想しても、それらの起案を躊躇し、自らイノベーションの芽を摘んでしまう可能性が高くなります。日本の組織は欧米の組織に比べ、 PDIが高いという調査結果が出ています。少なくともイノベーション促進のためにはPDIを低くする企業文化を育てていく必要があります。

④ リーダーのタイプ
組織におけるリーダーにはいろいろなタイプがありますが、率先垂範型、指示命令型の場合、新しいアイデアを生み出すのはリーダーだけの役割だと思い込まれてしまいがちです。イノベーションを促進するリーダーはビジョンを掲げ、達成すべきゴールを目指すように啓発する役割を果たすビジョナリー型であることが望まれます。さらに、イノベーションを継続させる組織にするためには、社員が創造性を発揮しやすいような環境整備もリーダーの役割となります。成功した組織はどうしてもその体験から固定的な価値観に縛られる傾向があります。社員がせっかく高い能力と志を持って革新的なアイデアを見出しても、「前例がない」などの理由で葬り去ってしまうことがあります。「俺が若いころは…」という成功体験による組織の自縄自縛がイノベーションを阻害します。リーダーには、このようなイノベーションの阻害要因を排除していく組織作りが求められます。

参考までに申し上げると、「報酬」や「評価」は組織のイノベーション促進に寄与しないようです。そもそも、それらを気にするようではサラリーマン気質そのものであり、心意気からしてイノベーターとは呼べないのかもしれません。

今後、日本企業はイノベーションを促進していくための個人の能力とともに、組織の能力も同時並行的に、いや、むしろ相乗的に伸ばしていくことが必要と考えます。

次回はオープン・イノベーションについて話します。


2015年3月

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