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2014年02月01日

グローバル展開における商品企画

前回のコラムでは、「今後、日本メーカーは当初からグローバルで通用するものづくり、コトづくりが必要で、商品はこれまで以上に“多様化”と“低度化”が求められる」とお話ししました。
日本メーカーが苦手としてきたグローバル市場での「多様化」「低度化」に戦略的に取り組み、成功している企業の例として、韓国のSamsung Electronics社(以下サムスン社)が挙げられます。サムスン社は、携帯電話やテレビなどの家電を地域や顧客層ごとに合わせた機能・デザインで提供しています。テレビの場合は年間1,000から1,500ものモデルを投入していると言われており、年間に出すモデルがせいぜい2桁の日本メーカーとは根本的に戦略が違います。多品種である分、当然1モデル当たりの生産量はかなり少なくなります。

グローバル展開を考える時、国ごとに文化や好み、生活習慣や自然環境が異なるため、現地のニーズに合わせて商品企画や開発をしていく必要があります。商品企画では、市場の要求に合わせたそれぞれの要求仕様を設定していきます。サムスン社では、現地の消費者に使われない過剰な機能でなく、消費者がワクワクする機能や「体感不良率」を重視しています。地域ごとにどのような機能が必要で、どのような機能が要らないのか、現地社会に入り込んで綿密に調査し、本当に必要とされる機能を厳選し、初めから現地の人が買える価格での商品を企画しています。このように、地域のニーズを的確にとらえる市場調査や商品企画は、新興国市場はもちろん、欧米でもシェアを伸ばす要因となっているようです。サムスン社が品質の基準とする「体感不良率」とは、販売台数に占めるクレーム件数の割合で、この数値をもとにクレームを減らしていく対策が考えられています。品質基準をメーカー社内の公差や検査で定めるものでなく、「お客様が不良と感じれば不良であり、不良と感じなければ不良でない」という割り切った考え方をしています。

「良いものを作ればどこでも売れる」という考えは、グローバル新興国では通用しないし、各国の文化や消費者のニーズを知らずして、ものは売れません。新興国といえども、単にコストを下げるだけではシェア獲得は難しいでしょう。現地ならではのニーズや事情を汲み取るためには地域を熟知した人材が必要となります。

サムスン社には「地域専門家」と呼ばれる制度があります。これは、真の国際化を目指し、社員に海外の文化や習慣を習熟させて、その国の「プロ」となる人材を育てることを目的とした制度で、入社3年目以上、課長代理クラスの社員が対象です。毎年数百人を選抜し、アジア、欧米、中東、ロシアなど、これまでに約4,000人が世界各国に派遣されたとのことです。「地域専門家」は派遣先の国に1年間滞在し、自主的に計画を立てて、その国の言語や文化を学びます。期間中、給料は支給されますが、仕事の義務はありません。その代わり、日々の生活、語学学習、人脈作りなどは一切会社を頼らず、自力で乗り切ることが求められます。現地では、現地語で会話しなくては生活に密着したニーズを探し当てることはできません。例えば、インドではヒンディー語でインドネシアではインドネシア語で現地社会に溶け込んで、フレンドリーに対話することが求められます。

各国の市場ニーズを反映した新たな製品を開発するためには、現地のニーズを的確に理解し、現地本位の商品企画が必要です。しかし、日本のメーカーではまだまだ日本の本社主導で商品企画や開発を行うことが多いようです。現地法人への権限委譲や現地人の採用も欧米企業に比べて進んでいません。最近は外国人を本社採用する日本企業も出てきていますが、現地企業や大学との連携を積極的に進める欧米の企業に比べ、まだまだ本社主導、日本人中心です。各国市場やビジネス環境に精通した現地企業との戦略的連携も考慮していくべきです。

マーケティング面では商品の良さを広く伝える必要があります。サムスン社のように現地の事情を熟知した地域専門家制度の経験者がいれば、中東やアフリカなどの異文化地域でも相互の理解が深まり、ビジネスコミュニケーションがスムーズに運びます。販売・サービス網が未整備な新興国では現地での流通・販売経路の確保も重要となります。販売地域に合わせたアフターサポートは、製造業の新たな差別化ポイントになってきています。また、これまでのブランドイメージを損なうことなく、新たなブランドを確立することも重要な戦略のひとつとなります。例えば、チャネル別に投入ブランドを分けることで、既存のブランドイメージを崩すことなく、幅広いお客様層へのマーケティングが実施できます。

これまで述べてきたように、現地ニーズを反映した商品企画が求められる一方、新興国の経済レベルに則したリーズナブルな価格帯の商品開発・生産が、日本のメーカーにとっては大きな課題となります。
次回はグローバル展開において、多様化と低コスト化をどう両立させるかについて考えてみます。

2014年2月

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