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2014年03月01日

製品の多様化と低コスト化の両立

日本のメーカーがグローバル展開を進めていくためには、現地ごとのニーズに合った付加価値の高い製品を、新興国の経済レベルに合った価格で提供できる「ものづくり」「コトづくり」が課題となります。今回は製品の多様化と低コスト化の両立について考えてみます。

まず製品の低コスト化を行うには、製品の生産量を増やすことで製造コストを下げる、「規模の経済性」を追求することが有効です。生産量を増やせば増やす程、製品あたりの間接費割合が下がります。また、生産量が増えれば、原材料も大量仕入できるので仕入単価が下がり、原材料費も下がります。よく同じ業種の企業が提携や合併を行うのも、「規模の経済性」によるコスト効果が大きな狙いの一つになっています。しかし、今後のグローバル展開では低コストだけでは不十分で、国や地域別に異なる多様な製品をスピーディに市場投入していくことが求められます。このように製品が多様化すると、今度は製品当たりの生産量が小さくなり、「規模の経済性」を享受できなくなります。また、市場ニーズに合わせて製品を個別に開発していくとなると、市場投入スピードも遅れ、開発コストが膨大となってしまいます。

そこで求められることが、「規模の経済性」(スケール・メリット)から「範囲の経済性」(スコープ・メリット)へのレベルアップです。「範囲の経済性」とは、同じ生産設備や部材を使って、種類の異なる製品の製造コストを低減させることをいいます。企業が複数の事業を持ち、事業活動間でなんらかの経営資源を共有することで、より経済的な事業運営を行うことも「範囲の経済性」となります。多品種少量生産型のビジネスにおいて部材や生産設備を共用したり、複数事業において固有技術、販売チャネル、ブランドなどの経営資源やノウハウを共用すれば経済性を高めることができます。また、管理費なども複数の製品や事業で重複する部分が削減できます。「範囲の経済性」を高めるためには、できるだけ共用できる部分を多くすることが必要です。ただし、範囲の経済性をあまり求め過ぎると、製品多様化の価値を損なう可能性もあるので注意が必要です。

「規模の経済性」をベースにしたものづくりをマス・プロダクションと呼ぶのに対して、「範囲の経済性」をベースにしたものづくりは、マス・カスタマイゼーションと呼ばれます。顧客/市場ニーズに応じて固有の部材を用意し、個別最適の設計で、個々の製品の製造ラインを提供するのはフル・カスタマイゼーションですが、マス・カスタマイゼーションは少数の部材の組み合わせや製造ラインの共用によって製品の多様化を実現する方式となります。

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図1.ものづくり3方式の位置付け

低コストを確保しつつ、多様化する顧客/市場ニーズにも対応する、というマス・カスタマイゼーションの考え方は2000年前後から注目を浴びてきました。
マス・カスタマイゼーションによるものづくり例を見てみましょう。まず、PCではCPU速度やディスク容量・メモリ容量など、多数のオプションから、お客様が自分の好みに合わせて選べるようになっています。住宅では、注文仕様に合わせてゼロから設計していく注文住宅がフル・カスタマイゼーションであるのに対して、プレハブ住宅は標準的なモジュールの組合せによって選択のバリエーションを作りだす、マス・カスタマイゼーションを実現しています。モジュラー化によって、必要な中間部品や半完成品をある程度大量に生産しておくことができるため、製造コストは下がり、注文から納品までのリードタイムを大幅に短縮することができます。自動車メーカーにおいては、部品や製造ラインの共通化はプラットフォームをベースにして行われてきました。共通のプラットフォーム化を行うことにより、デザインや内装、エンジンの種類が異なる複数の車種を短期間で開発・製造でき、設計、製造コストを圧縮することができます。マス・カスタマイゼーションを極めて行くためには、部品や製造ラインの高度なモジュラー化・共通化が鍵となります。このためには開発、生産管理、生産技術、製造、営業を交えた全社的な取り組みが必要となります。一方で、モジュール化は製品をコモディティ化させ、価格競争に巻き込まれるリスクもあるためその対策も必要となります。

中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域、南米、アフリカなど、一口に新興国市場といってもそれぞれの地域によって文化や好みや生活習慣、商慣習そして経済レベルは全く異なります。今後、日本のメーカーがこれらの新興市場を顧客として取り込み、グローバル展開を図っていくには、さらなるマス・カスタマイゼーションを推し進めていく必要があると考えます。
次回は、自動車業界における新たな取り組み等も参考に、マス・カスタマイゼーションについてもう少し考えてみます。

2014年3月

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