2025年01月01日
本気の「Fit to Standard」でユーザー企業が為すべきこと
Fit to Standardとは
ERPを始めとしたパッケージ導入アプローチは、「Fit&Gap」から「Fit to Standard」※に主流が移りつつあります。「Fit&Gap」(以下F&Gと略す)はパッケージを自社の業務プロセスに合わせ、生じるギャップはカスタマイズやアドオンと呼ばれるシステム機能変更や追加で調整していくアプローチです。一方、パッケージの標準機能に自社の業務プロセスを合わせるというアプローチが「Fit to Standard」(以下F2Sと略す)です。これまでのF&Gアプローチは、大量のカスタマイズやアドオンを生み出し、コスト増大や納期遅延となりがちでした。そのため、最近はF2Sを方針に掲げることで、低コストかつスピーディーな導入を目指すプロジェクトが増えています。今回はこのF2Sに本気で取り組むために、ユーザー企業が為すべきことについて考察します。Fit&Gapアプローチの限界
システム・パッケージの中でも特に規模の大きいERP導入プロジェクトでは、パッケージと業務のギャップを埋めるためのシステム機能の変更や追加が大量に発生しました。コストや納期の大幅な超過や、途中で頓挫するプロジェクトは珍しくありません。なんとかシステム稼働しても当初狙いとした効果は得られず、単なるシステムの置き換えとなったプロジェクトもよく見かけます。Fit&Gapから本気のFit to Standardへ
このような状況に対し、DX展開が叫ばれ始めた2020年頃から、F2Sの考え方がベンダーから提唱され始めました。ERPパッケージ自体に大きなカスタマイズをしないように標準機能を最大限使い、パッケージに要件をあわせてシステムを導入。低コストかつ短期間で本番運用まで持っていくと同時に、それ以降の新規技術や機能を装備した新バージョンへの更新も容易になります。企業の経営者は、このF2Sの考え方に対し、導入コスト・スピードが圧縮されてDX推進につながるとなれば、賛同するのは当然です。また、製造業の企業にとって、F2Sがもたらす標準化やリードタイム短縮はものづくりと同様に、総論として前向きに受け入れられます。また、システム部門にとっては2巡目のERP導入となる企業も多いでしょう。最近のERPの機能充実への期待もあり、「No」とは言えない状況です。掛け声だけのF2S、当初の意気込みからトーンダウンしてしまうF2Sではなく、本気のF2Sに取り組んでいく必要があります。本気のF2Sで、ユーザー企業が為すべきこと
F&GとF2Sのアプローチは業務とパッケージの差を埋めていくという点では、一見大差ないように見えますが、進め方と企業の担うべき役割は大きく変わります。これまでのF&Gでは、ギャップを特定し、その解消のためにカスタマイズやアドオンを提案するのはベンダー主導で行われてきました。これに対してF2Sでは、パッケージ標準機能を最大限活用し、パッケージに要件を合わせていくのはユーザー企業自身が主導していくことになります。まず、自社の競争力の源泉となる独自の業務と、単に独自なだけの業務を見分けるのは当事者であるユーザー企業にしかできません。競争力のある企業といえども、全てが固有である必要はありません。例えば、短納期サービスで差別化している企業の場合、強みの源泉となるサプライチェーンプロセスは固有性を大事にし、その他のプロセスは標準化して良いことになります。競争力に寄与することのない領域は標準化し、競争力の源泉となる領域はその強みを維持し強化していくために自社固有の業務プロセスのあるべき姿を追い求めていきます。自社では当たり前と思っていたことが実は強みであり、逆に自社特有と思っていたものが他社と変わらないことはよくあります。このようにF2Sアプローチでは、まず企業自身が客観的に差別化業務を見直し、明確にしていきます。次に、F2Sでは多くの業務をパッケージ標準に合わせていくことが求められますが、慣れ親しんだ業務を変えるのは簡単ではありません。F2S方針を掲げただけでは、プロジェクトを進めていくとともに徹底が不十分となり、形骸化していきます。特に業務に精通したベテラン担当者は、現行の業務のやり方が最適化されたものと信じ込んでいます。さらに、現行の業務が標準化されれば、担当する仕事の価値が下がり、自身の役割が奪われてしまうのではという不安感から、標準化への抵抗勢力となっていきます。このような抵抗を減らしていくためには、プロジェクト当初から現場を巻き込み、適切なコミュニケーションを継続的に行っていきます。そして、明確な優先付けルールに基づき、関係者が客観的に意思決定を行っていく仕組みを確立していきます。
F2Sはベンダーに促されてやるものではありません。ユーザー企業が方針を決め、主導していくものです。流行りの標語に踊らされることなく覚悟を持って臨み、ベンダーと協業しつつ進めていくことで、製造業の多くの企業がF2Sの成果を享受できることを期待します。
※:F2S(Fit to Standard)の価値
https://www.kobelcosys.co.jp/lp/sap/column/23032403.html
2025年1月
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