2019年01月01日
デジタル化とものづくり④
~PoC症候群に要注意~
デジタル化に取り組むには、自社にとってこれまで例のない新たな価値創出を狙い、AIやIoTなど未経験のテクノロジーを利用することになります。このように、未知の要素や不確実性を多く抱えるデジタル化の検討を進めて行く際に、本格的な取組の前段階で、PoC(Proof of Concept)と呼ばれる概念検証を行うことが多くなっています。今回はデジタル化の推進において、重要な役割を果たすPoCについて考察します。
PoCとは新しいコンセプトの有効性・実現性を仮説検証することで、不確実さを伴うプロジェクトのリスクを軽減・回避する手法として、すでに色々な領域で適用されています。例えば、医薬品の領域では、ある物質が疾患の治療薬になり得るという仮説に対し、実際の患者に対する有効性と安全性について臨床試験を通して検証することがPoCに相当します。ITの領域でも以前からPoCは使われてきましたが、ここ数年デジタル化の取組が急増してくると、その検討段階でコンセプトの有効性や実現性を検証するために、PoCの利用が多くなってきています。
つまり、デジタル化のコンセプトである、
- どのターゲット(誰)に対しどんな価値提供をするのか
- そのためにどんな能力が必要なのか
- その手段としてのデジタル技術はどんな役割を果たすのか
図表1:デジタル化のコンセプト
PoCと類似の手法に、新規事業でよく見られるフィージビィリティ・スタディがあります。新しいサービスや製品の収益性や実現可能性を検証するために用いられるのがフィージビィリティ・スタディです。両者はよく似ていますが、特に技術的実現可能性の検証が重要となる場合はPoCと呼ばれるようです。一方、プロトタイプもPoCと見られることがありますが、これは別物です。プロトタイプはコンセプトが検証された後に、そのコンセプトを実現するために一通りの試作を行う手法です。コンセプトを検証するために行うPoCとは明らかに目的が異なります。
デジタル化に取り組む多くの企業にとって、今や常套手段となりつつあるPoCですが、その実態は必ずしもうまくいっていないケースが多いようです。デジタル化プロジェクトのPoCにおいて注意すべき症状別に、その原因や対策を見ていきましょう。
図表2:POC症候群の症状と考えられる原因
まず1つ目の症状として、PoCを実施する前に停滞しているケースです。この原因としては、折角PoCを行うのだからと、検証内容の「盛り過ぎ」が考えられます。例えば、ものづくりのIoTに取り組むときに、どうしても生産性向上や品質改善、設備保全などと欲張ってしまいます。欲張る程、検証用データ準備や設備の整備などに期間と手間を要し、肝心のPoCをいつまでたっても始めることができません。この症状に対する予防策は、「Think big, start small」を心がけ、コンセプトの核となる部分に焦点を当てたPoCにすることです。
2つ目の症状は、PoCは開始したものの、迷走して長引くケースです。この原因は、「技術偏重」のコンセプトにあることが多いようです。PoCでデジタル技術の検証が進んでも、それをどう使い、どう活かしていくかのアイデアなしでは、PoCはズルズルと長引くことになってしまいます。例えば、革新性の高いAIは、技術的に分からないことをアレコレと検証したくなりがちです。この予防策としては、PoC実施前のコンセプト検討段階で、手段となるデジタル技術以上に、価値や能力に関する仮説立案に注力しておくことです。
3つ目は、PoCは実施したもののそこで止まってしまう症状です。この原因として、「取り敢えずPoC」のノリで安易にPoCを実施してしまったことが考えられます。PoCは終わったものの、結局次に何をすべきか分からず、そこで止まってしまうことになります。この症状にならないための予防策は、PoCに入る前にコンセプトをしっかり固めることです。PoC後は、その検証結果を客観的に評価することで、次のアクションにつなげていきます。
当然ですが、PoCを実施したからといって、仮説がそのまま検証されるとは限りません。デジタル化の場合はむしろ期待通りの検証結果が出ることの方が少ないでしょう。PoCの結果、コンセプトの見直しや断念も起こり得ます。例え、デジタル化のコンセプトがNGとなったとしても、そこで得られた結果やノウハウは貴重です。デジタル化の取組においては、早く失敗することで、早くデジタル化の成果を挙げることにつなげていけます。
デジタル化ブームの中で、PoCに頼り過ぎ、PoCが目的化するといった風潮も見受けられます。PoCを実施したという実績だけでは、時間の浪費で終わってしまいます。前々回のコラム※1で取り上げたように、製造業ではデジタル化を検討中だという企業の割合は半数に達しているものの、成果を出せている企業はまだ1割未満です。これは今後多くの企業がPoCに取り組んでいくことを意味します。そこでPoC症候群に陥ることなく、早く確実にデジタル化の成果を出していくことを期待します。
※1:デジタル化とものづくり② ~金融に学ぶデジタル化のヒント~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20181101/
2019年1月
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