ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2019年02月01日

デジタル化とものづくり⑤
~データを制するものがビジネスを制す~

デジタル化の進展とともに、データの価値は高まるばかりです。データをうまく活用することで、企業は競争力を大きく高めることができます。ビジネスの世界だけではなく、野球やサッカーのようなスポーツや選挙戦でもデータを制することが勝敗に大きく影響します。1月にスイスで開かれたダボス会議に出席した安倍首相も、「成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っている」と演説しています。日本企業としては、データで競争力を高め、成長につなげて行きたいところですが、現状はどうでしょうか?

まず個人データを見ると、スマホの普及でますます活用の幅が広がっています。最近は決済や融資審査、個人資産管理など様々なフィンテック・サービスがスマホ上でできるようになってきています。情報の検索だけでなく、例えばどの店に行き、何を買い、いくら使い、誰と割り勘にしたといった個人の行動データが一層細かく把握できる時代となりました。個人データの活用においては、米国のGAFAを代表とするIT企業が膨大な個人データを保有することで、圧倒的な優位性を築いています。EUが一般データ保護規則(GDPR)を法制化したのも、個人データ寡占リスクへの牽制と見ることができます。米国の企業だけでなく、13億人という異形の市場をもつ中国のネット企業も、桁違いの多数の個人データを集め、活用することで企業価値を急速に高めています。一方、日本は英語圏ではなく、人口も限られているため、日本企業の個人データ活用は米国や中国の企業に比べると、かなりハンディキャップがあります。

そこで、ものづくりの得意な日本企業としては、産業データの活用で競争力を高めていきたいところです。デジタル化で特に期待の大きいAIの精度を高め、ビジネス価値を生み出すには、質の良い産業データをたっぷりAIに与え、その意味をしっかりと学ばせる必要があります、例えば、ディープラーニングによる製造機械の異常予知には、正常時と異常時のデータを充分に用意し、学習させることで、異常を予知するネットワークが出来上がります。データが不十分だと、なんらかのネットワークはできても、「動かないAI」となってしまいます。
総務省による産業データ活用の国際比較調査によると、産業データを「既に積極的に活用」している日本企業は16%に止まり、米国やドイツに比べ半数以下の割合です。(図表1)

産業データ活用状況の各国企業比較
図表1.産業データ活用状況の各国企業比較
出典:総務省調査データ(平成29年度)より編集加工

日本企業の半分はまだ産業データを活用できていません。この原因としては、そもそも必要な産業データがない、産業データがあってもデータの品質や整合性の問題で、そのままデータ活用ができないことが挙げられます。しかし、日本企業のものづくり現場には、製造時のデータや検査・品質データなど、様々な産業データが日々生まれています。日本企業としてはこのような産業データを活かしていきたいところです。ところが、データはあってもExcelやWord、PDFとバラバラの形式では、データ変換やデータ再入力といった人海戦術が必要となってしまいます。IoTやセンサーで膨大なデータを収集・蓄積することはできますが、AI適用のために適切なデータを探し、不揃いなデータを整え、品質の悪いデータを除外するなど、データ準備に労力の大半を費やすことが実態だと言われています。適切なデータを用意するのに時間を要していては、肝心の学習時間が限られます。いかに使える産業データを整備していくか、そしてそれらを担える人材を育成していくかが解決すべき急務の課題です。
次に、「バリューチェーン上のどの領域で産業データ活用を目論んでいるか」について、国ごとの調査結果を見ると、各国企業の特徴がでています。(図表2)

産業データ活用領域の各国企業比較
図表2.産業データ活用領域の各国企業比較
出典:総務省調査データ(平成29年度)より編集加工

ものづくりとロジスティックスの生産性を大幅に高めるIndustrie4.0を推進しているドイツ企業は、生産・流通・販売・サービスといったバリューチェーンの後半でのデータ活用を重視しています。また、データを活用したモノのサービス化を実践しようとしていると見ることができます。逆に米国企業は、海外への工場移転や、ファブレスが多いため、研究開発領域を始めにバリューチェーン前半でのデータ活用を進めようとしています。一方、日本企業を見ると、商品企画でのデータ活用意向が高く、生産でのデータ活用意向が米国企業より低いという意外な結果がでています。製品のコモディティ化に苦しんできた日本企業は、データ活用による製品の差別化や付加価値向上に強く期待していると考えられます。

このように日本企業は、産業データ活用のためのデータ整備を進め、日本企業としてのデータ活用の道を歩んでいく必要があります。個人データの活用はサイバー空間の中だけで完結するのに対し、産業データの活用では、リアルな世界と融合して価値が作り出されます。日本企業に即した産業データの活用を極めていくことで、これからも競争力を高めていけるものと期待します。

2019年2月

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