2017年12月01日
AIとものづくり⑩
AI活用で製造業を強くする
製造業におけるAI活用の有効性、そして幅広い業務へのAIの適用性については、世の中でかなり認知されてきました。そこで今回は、日本のものづくり企業が競争力を高めていくため の重点課題に焦点を当てて、今後どのようにAI活用していくべきかを考察してみたいと思います。
■日本のものづくり企業が抱える2つの重点課題
一つ目の重点課題は、これまで日本のものづくりを支えてきた「現場力の維持・向上」です。これまで製造現場では、熟練技能を持つ人材が、高い生産性や高品質をもたらしてきました。しかし、現場力の源泉となってきた熟練技能者の大量退職と人材不足により、日本の製造業の強みである現場力が危うくなっています。経済産業省の調査によると、回答企業約4500社の8割が「人材確保が課題」とし、2割の企業では既にビジネスに影響がでています。一時的には定年延長などによって凌げても、数年以内にはベテラン人材不足への抜本的な対策が求められます。
課題あり 80.8% |
特に 課題無し |
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大きな課題と なっていて、 ビジネスにも影響 |
課題はあるが、 ビジネスに影響が出ている 程ではない |
課題が顕在化 しつつある |
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22.8% | 35.6% | 22.4% | 19.2% |
日本の製造業のもう一つの重点課題は、長年の弱みである「製品の付加価値の低さ」です。日本のものづくり企業の付加価値率は長年の低下傾向から改善しつつありますが、まだ米国に比べ低いレベルにあります。また、付加価値の一部である利益をみても、日本の製造業のROE(自己資本利益率)は欧米に劣後しています。お客様から見た製品の価値となる付加価値の向上は、日本のものづくり企業に課せられた大きな課題です。
図表2.製造業(上場企業)のROE比較 2015年中央値
出典:「ものづくり基盤技術の振興施策(概要)」(経済産業省)より編集
■重点課題解決に向けたAI活用
それではこれらの2つの重点課題に、いかにAIを活用していくべきかを見ていきましょう。 1つ目の重点課題である「現場力の維持・向上」には、AI技術の中でも最近急速に進歩した「深層学習」が適用できます。現場力は主に「もの」を直接扱う製造工程で必要とされますが、これまでのAIは「もの」の識別や扱いが苦手でした。しかし、「深層学習」は「もの」の認識や操作を得意とし、たとえば、組立系の製造現場では、組立・加工や検査をこなせるレベルになっています。従来の産業ロボットは、予め設定されたとおりの、まさに「機械的」な作業しかできません。しかし「深層学習」を装備した産業ロボットは、これまで自動化が難しかった複雑な作業もスマートにこなし、人間の熟練技能者と同等以上の生産性や品質が期待できるようになってきました。また、これまでは工程や製品が変わる度にロボットのチューニングに多大な期間や工数が必要でしたが、「深層学習」を装備した産業ロボットになると、人間と同様に知恵と経験を蓄積し、上達し、現場の「カイゼン」を行うことも可能となります。
化学系や金属、食品など、プロセス系の製造現場においても「深層学習」は有効です。設備の温度や圧力等の組み合わせの最適化、異常検知や故障予測などの稼働管理は、これまで熟練技術者が担ってきました。これらの最適化や稼働管理に「深層学習」を活用することで、彼らの経験値や直感力を低コストで伝承できるようになってきています。このように、そろそろ熟練人材に頼った現場力から脱却し、AI活用による新たな現場力を築いていくことが可能になりつつあると考えます。
2つ目の重点課題である付加価値の向上に対しては、顧客価値に直結する製品・サービスのイノベーションにAIを活用すべきです。以前、当コラムにおいてGE社のデジタルツインによるサービスや家電製品へのAI適用例を取り上げました(※)。デジタルツインとは、実製品から送られてくるデータから仮想的に同じモデルを再現し、そのモデルをAIによって稼働分析し、故障予測を行うものです。このデジタルツイン技術は、今後多くの製品・サービスに適用することができます。製品・サービスのAI活用の肝は、お客様の気付いていない価値、期待を超える価値を見出すことにあります。最近話題のAIスピーカーや完全自動運転などの自動車、家電などに加え、建設機械、農業機械、産業機器における製品・サービスでも既にAIが活用されていますが、今後はさらに顧客価値を研ぎ澄ましたAI活用を進めていく必要があります。
※ ・AIとものづくり③ AIが家電を変える(17年5月)
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20170501/
・AIとものづくり④ 社会インフラの安全を支えるAI(17年6月)
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20170601/
製品・サービスの価値の源泉となるアイデア創出にもAIが活用できます。顧客から寄せられる苦情や要望、修理サービス報告、SNS等での製品に関する情報は、コトづくりアイデアのヒントが埋もれた宝の山です。しかし、これらの情報量は膨大で、構造化もされていないため、これまで人手による分析は困難でした。ここにAIを活用することで、これまで全く気付かなかった新たなコトづくりの発想が期待できます。
以上のように、現在の日本の製造業はAI活用の変革期にあると言えます。日本の強み、現場力の拠り所であった熟練技能者が減っていき、コトづくりで苦戦している日本の製造業が、AIをうまく活用していくことで、「現場力の維持・向上」「製品の付加価値の低さ」と いう課題をブレークスルーしていけると期待します。
2017年12月
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