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2017年05月01日

AIとものづくり③
AIが家電を変える

今回は「製品そのもの」へのAI活用について話します。AIを活用している製品と言えば、自動車、建設機械、工作機械などがよく知られていますが、今回は日常生活で身近な製品である家電のAI活用を見てみます。

そもそも家電はデジタル化が進んできたことで、すぐにコモディティ化し、価格競争に陥りやすい製品です。家電メーカーは少しでも差別化しようと、頻繁に新製品、新モデルを市場投入してきました。たとえば、テレビメーカーは、高画質化・大画面化を競い、洗濯機メーカーは5年間で必要な水量を半分に節水し、乾燥機能も付加するようになりました。エアコンも年々節電が進み、空気清浄機能もついています。また、スマート家電として、スマホでも操作できるようになっています。他にもきめ細かな調整メニューや新機能が次々と追加されてきました。

しかし、このような性能アップや多機能化は家電の買い替えにはつながっても、市場拡大にはあまり寄与してきませんでした。ここ数年の家電の国内売上は、エコポイント時を除いて伸びていません。世界の家電売上をみても、インドやインドネシアなど新興国の需要は増えているものの、世界全体では小幅の成長に止まっています。このように家電市場では、消費者が思いもつかなかった革新的な製品や用途により、新たな需要を創り出すのはなかなか難しいようです。


では、家電におけるAI活用例を見てみましょう。

家電 AI活用例 提供価値
テレビ 視聴傾向から利用者好みの番組をお勧め 意味的価値
エアコン 室内にいる人の様子(声や顔の表情、脈)から運転調整
冷蔵庫 庫内食材の賞味期限管理
掃除ロボット 部屋の掃除の自動化 機能的価値
洗濯物たたみロボット シャツ、下着、タオルなど洗濯物のたたみ自動化
料理ロボット 2000メニューの料理自動化

図表1.家電におけるAI活用例

まずテレビでは、AIが日頃の視聴傾向から利用者の嗜好を学習し、利用者好みの番組を提示してくれます。エアコンでは、AIが顔の表情や声、脈などから人の体調を分析し、適温に調整をしてくれます。これらAI活用例は、利用者の主観に訴える意味的価値を高めるもので、本人も意識していない感動ポイントをとらえた番組提案や、エアコンの自動調整で快適さが実感できれば、売上拡大につながるはずです。

一方、掃除ロボット、料理ロボット、洗濯物たたみロボットは、家事の中でも特に負担の大きい掃除、炊事、洗濯を自動化し、消費者に分かりやすい新たな機能的価値を提供します。MITの研究者により15年前に発売開始された掃除ロボットは順調に普及し、今後も世界での売上成長は年15%以上になると予測されています。料理ロボットと洗濯物たたみロボットはこれから量産・発売の段階です。料理ロボットはAIが一流シェフの技を画像から学習し、今では2000メニューを2本の手で段取り良く料理してくれるレベルになっています。また、洗濯物たたみロボットは、シャツや下着、タオルなどをきれいに折りたたみ、そのまま収納できるように仕分けてくれます。

これら3つのロボットの特長は、掃除、炊事、洗濯物たたみを単に自動で行うだけではなく、品質的に一流の仕事をしてくれることです。そして、これらの複雑な仕事を時間を掛けずに行うことを可能にするのがAIです。価格次第ですが、これらの家電ロボットは今後の家電市場で新たな成長分野になることが期待されます。


今年の家電市場で大きな成長が見込まれるのが、AIによる音声認識です。昨年末に発表された日経トレンディの「2017年のヒット予測ベスト30」の第1位には、音声認識付き家電が選ばれています。音声認識付き家電は、声で家電の操作ができます。夜、真っ暗な部屋に帰ってきて「電気つけて」と言えばライトが点き、テレビやクーラーのON / OFFや調整も音声でできます。

音声認識AI
図表2.音声認識AI

アメリカでは、すでに音声認識AIの装置がAmazon社やGoogle社から発売され、品切れになる程の売行きです。この音声認識AI装置を通して、調理しながらタイマーセットしたり、ソファで寝転んで本を読みながらテレビを消すなど「ながら操作」ができます。この装置はクラウドにも接続され、ニュースや天気予報、交通情報確認やネット注文が、会話で可能となります。スマホやPCが苦手な方、お年寄りや視覚障害のある方でも、やりたいことを言うだけで操作可能です。個人差のある声質やイントネーションを聞き取り、その内容を正しく理解し、すぐに返答できるのはこの音声認識AIの得意とするところであり、学習によりその認識率や判断力もどんどん高まっていきます。音声認識AIは家電メーカーや自動車メーカーにもオープンに提供され、その連携サービス数は今年年初には7000を超え、飛躍的に増え続けています。自動音声AIがプラットフォームとなり、多くの家電から膨大な利用経験情報が収集され、その学習成果が貯まっていくことで、AIはどんどん賢くなっていくはずです。近い将来に、格段に利便性の高い音声認識付き家電が日常で使えるようになるものと期待します。


2017年5月

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