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2016年09月01日

ビジネスモデルを変える⑨
自動車メーカーはなぜシェアリングを競うのか?

8月号でお伝えした「もののシェアリング」の中でも、最も先行しているのが車のシェアリングです。先進国において新車販売の伸びは期待できない中、前回取り上げたカーシェアやライドシェアは急速に拡大しています。今回は、自動車メーカーにとって諸刃の剣となりそうな車のシェアリング・サービスを、自動車メーカーはどう見て、どう関わろうとしているか見てみます。

車のバリューチェーンにおける所有と利用
図 車のバリューチェーンにおける所有と利用

まずカーシェアに対し、欧米の自動車メーカーは重要な事業と見なし、他社と競っているようです。例えば、BMW社は5年前からカーシェアの「ドライブナウ」というサービスを、欧州を中心に展開しており、その利用者は既に45万人を超え、事業としても利益を出しています。ダイムラー社も「カー2ゴー」というカーシェア・サービスを欧米33都市に展開しています。両社とも、これまでのように新車販売台数だけに拘るのではなく、モビリティ(移動)・サービスでNo.1になることを目標に掲げています。

このように自動車メーカー各社がカーシェア・サービスに本気で取り組む理由の1つは、大都市では高い維持費がかかる車を保有するより、必要な時に車を利用する傾向が強まっていくと見ているからです。5年後には世界の大都市の運転免許保有者の25%がカーシェアを利用するとの予測もあります。さらに、最近は若い人の車離れが顕著になっています。日本のある調査では、10代20代の6割は車を購入する意向がないと発表されていますが、これは先進国共通の傾向のようです。自動車メーカーのカーシェア・サービス参入は、このような車離れ世代やマイカーを手放す層の需要を取り込むことも狙いの一つとなります。

次にライドシェア(スマホでの相乗り配車サービス)に対しても、自動車メーカー各社は積極的に関与し始めています。VW社やダイムラー社、GM社など欧米そして日本の大手自動車メーカーもライドシェア企業との提携・出資を進めています。このように、自動車メーカーにとって販売需要を減らすリスクがあるライドシェアに急接近するのは、車の所有から利用への大きな潮流に抗うより、変化を受入れ、収益源を多角化する方が得策と判断するからです。移動手段として自家用車が当たり前のアメリカでも明らかに変化が起こっています。昨年の10月-12月期には、ビジネスマンが出張中の移動手段としてライドシェアサービス「Uber」を使う人がレンタカーやタクシーを初めて上回ったことが経費精算データの分析から明らかになりました。ライドシェアの料金の安さ、配車や精算の利便性が出張族を引き寄せるでしょう。また、今年の民主党の大統領候補予備選挙の集会案内には、「来場はライドシェアかタクシーで」と書かれており、実際に多くの参加者がUberなどのライドシェアで来場したとのことです。

このように多くの自動車メーカーが車のシェアリング事業に積極的になるもう一つの大きな理由は、将来の完全自動運転の普及への布石と見ることができます。これまで自動車メーカーは自動運転車の開発に注力し、自動運転機能をどんどん実装してきています。ある調査では、完全自動運転車は、2035年までに新車販売台数の約10%まで普及が進むとの見通しです。ボルボ社とUber Technologies社は提携して、自動運転の試験運用を始めようとしています。けっして遠い将来ではないロボカーが普及していくと、相乗的にカーシェアがさらに拡大していくと考えられます。自動運転で運転手もいなくなり、スマホのアプリですぐに車が迎えにきてくれると、ライドシェアとカーシェア、タクシー、レンタカーの区分けも実質的になくなります。車の所有は減少していくものの、車の利用は増えていくと推測されます。このような自動運転時代を迎え、自動車業界の各プレーヤーが狙うのは、車の利用サービスのプラットフォームを築くことと思われます。このプラットフォームを担おうとするのは、自動車業界のプレーヤーに限りません。グーグル社やアップル社などのIT企業、公共交通やサービス会社も参画してくるでしょう。

自動車メーカーの20年~30年先のビジネスモデルを見据えたシェアリング・サービスへの取り組みは、他の製造業にとっても色々と示唆を与えてくれるものと思います。


2016年9月

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