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2016年09月01日

持続的成長のための管理会計③
お宝の見える原価計算

製造業の支出の中で、製造原価は大きな割合を占め、原価低減は製造業が常に取り組むべき課題です。製造原価は原価低減対象の特定や施策の検討において重要なインプットとなります。それらを考えるには、内訳も含め製造にかかるコストを正確に捉えた精度の高い原価情報が必要となります。今回は、精度の高い製造原価そして内訳把握のために役立つ原価計算手法を2つお話しします。

無駄を数字で捉える「MFCA」 -廃棄物に着目する

製造において、原材料として投入されたが最終製品とならずに廃棄されるものがあります。廃棄物にかかるコストは無駄です。無駄をきちんと見ることで、利益向上のための宝の山を掘り当てたことになります。ですが、この無駄を金額で捉えている企業は少ないのではないでしょうか。

製造過程で発生する廃棄物にかかるコストを計算する「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」という計算手法があります。通常の原価計算では、製造において廃棄物が生じてもその原価を計算することはありませんが、MFCAでは廃棄物についても計算します。

マテリアルフローコスト会計(MFCA)の計算例
図 マテリアルフローコスト会計(MFCA)の計算例

上記計算例においては、通常の原価計算では、完成品の原価が1,500円となります。MFCAでは、完成品の原価が1,200円、廃棄物の原価が300円と分けて算出します。廃棄物にかかるコストは完成品を製造するために必要なコストと考えると通常の原価計算でよいと思えますが、廃棄物の無駄をはっきり見せるにはMFCAが適しています。

通常、廃棄物の量が減れば製品原価自体も下がるため、廃棄物を削減します。しかし、多くの企業では廃棄物にかかるコストを計算していないために、どこでどれだけ無駄が生じているかを正確に捉えておらず原価低減に活かせていません。

MFCAを適用した企業では、「どの製造工程で改善、改革が必要か、課題と解決策が明確になった」、「廃棄物処理コストや原材料ロスの大きい工程が特定できた」など、改善個所の特定にMFCAが有効であるとの声が少なくありませんでした。また、「的確な投資判断ができる」など、経営判断にも役立つと答えた企業もありました。

投入されたが完成品とならないものには、製造中の消失(蒸発など)、製品とならず捨てられる原材料、不良品など補助材料も含めれば様々なものがあります。また、MFCAは再投入にまわる副産物や屑も対象とします。原価低減のヒントとして、MFCAを活用して廃棄物などの無駄を探すことが考えられます。

コストを適正に配賦する「ABC」 -生産活動に着目する

特定の製品製造に使われる原材料や部品を除き、多くの原価で配賦計算がされます。多品種少量生産がなされる中で、コストの配賦が適切にできているでしょうか。配賦計算が不適切であるために、製造にかかるコストが製品原価として適切に計算されていない可能性があります。関係者が原価計算結果に疑問を持っており、原価低減策の検討材料として使えず、原価低減の議論が進まないなどの弊害も見られます。

例えば、機械加工の工程で、製品が変わるたびに行う段取り作業のコスト。これを機械作業時間を基準にして配賦すると、1個当たりの原価は少量生産品で大きくなるはずですが、大量生産品と変わらなくなってしまいます。これでは、段取り作業にかかるコストを高精度で製品に配賦しているとは言えません。

配賦金額の精度を高める方法として活動基準原価計算(ABC)があります。ABCでは、製品に直接紐づけることのできないコストを、段取り、組立作業、検査などの製品生産に必要な活動単位に分けて集計した後、段取り時間、組立時間、検査時間など活動ごとに適切な基準を使って各製品に配賦します。

通常の原価計算では、コストを製造部門や製造を補助する補助部門などコストセンターに集計し、補助部門に集計されたコストを製造部門に配賦後、製造部門に集計されたコストを製品に配賦します。通常の方法でもコスト集計単位やその配賦基準が妥当であれば精度の高い製品原価が計算できます。ですが、コストセンターの多くは機能や組織管理などの単位で設定されているため、集計されたコストにはさまざまなものが含まれており、単一の配賦基準で配賦すると精度の低い製品原価になってしまう可能性があります。

以前ABCが話題となった時は、原価計算に必要な作業時間など基礎数値の取得業務が煩雑になるなどの理由で製造業での適用は広がりませんでした。しかし、ITの進歩や活用範囲の拡大により、基礎数値のデータ化や入力が容易になったため、以前に比べてABC適用のハードルは下がっています。精度の高い製品原価情報を得るために、ABCの手法を参考にコスト集計単位の分割や配賦基準を検討することが考えられます。


原価低減は製品ライフサイクル上の製造段階だけでなく、製品設計など他の段階でも検討されます。製品製造原価は、設計段階で行う原価低減検討においても重要なインプットになります。また、最適なセールスミックスなどを検討する際にも有効です。製品製造原価を正確に捉えるには製造中の投入資源を詳細に把握し、原価を計算する必要があります。MFCAやABCの考え方を盛り込んだ原価計算の見直しを行ってみてはいかがでしょうか。


2016年9月

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