2024年12月01日
佐々木朗希のメジャー挑戦と球団経営の変化
~エンプロイメンタビリティの重要性~
千葉ロッテマリーンズ(以下ロッテ)・佐々木朗希投手(23)がかねてから希望していた「ポスティング制度※1の利用」(以下ポスティング)によるメジャーリーグ挑戦が認められ、移籍が確実となりました。
現在、日本人選手のメジャーリーグへの移籍は、「海外FA権※2の行使」か「ポスティング」という2つの方法に限られています。ただ海外FA権の取得には高いハードルがあり、高卒選手なら最短で27歳、大卒選手なら31歳まで手にすることができません。そのため、少しでも早くポスティングを球団に認めてもらうことを目指す選手が増えています。
また、以前のポスティングのルールでは入札に際してあまり制約がなかったため、最も高額な入札をした球団に独占交渉権が与えられました。実際に西武※3・松坂大輔投手の場合は約5,000万ドルと高騰し、所属球団である西武は交渉権の対価となる多額の譲渡金を得ました。「金で選手を売るのか!」と批判する他球団のオーナーもいたようですが、手放す球団側からするとポスティングを容認したほうが海外FA権で出ていかれるよりもメリットが大きいと考えるのは当然でした。
その後、譲渡金の上限が定められる、譲渡選手の活躍により譲渡金額が変動する、などの変更がありましたが、今回の佐々木投手の移籍で一番問題になっているのが「25歳ルール」です。メジャー球団が25歳未満の海外選手を獲得する場合は「マイナー契約※4」しかできず、23歳の佐々木投手を手放してもロッテに入る譲渡金は3億円※6にも満たない額です。昨年、25歳で移籍したオリックス※3・山本由伸投手は「メジャー契約※5」で12年総額約465億円※6という大型契約を結んだため、オリックスには約72億円※6が入ったとされています。
佐々木投手も球団がポスティングの容認をあと2年待てば山本投手同等の大型契約が見込まれるのに、と言う声も聞こえてきます。
では、なぜロッテはポスティングを容認したのでしょうか。入団時に「何年後かにポスティングを認める」といった約束を交わすことはルール違反であり、球団側も否定しています。それでも球団は「総合的に判断して」と夢を後押しする決断を下しました。それは一般の消費者に身近な食品を扱う企業イメージや球団のイメージを考慮したからではないかと考えます。
大谷翔平選手の大活躍によって、プロでの二刀流を実現させたことや、佐々木投手と同じ5年目終了後にメジャー挑戦をする際に、これを後押しした日本ハム※3に対して良いイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。また、他にもダルビッシュ有投手、有原航平投手など主力選手を次々とメジャーリーグに送り出した実績は、これからプロを目指すアマ選手やFA移籍を考える選手にとっても日本ハムは「選手の希望を叶えてくれる理解ある球団」というイメージになっているのではないかと想像します。そう考えるとロッテは譲渡金やマイナー契約のことよりも、佐々木投手が毎年希望を表明しているにもかかわらず「選手の希望や挑戦を受け入れない球団」という悪いイメージが先行することを恐れたのではないかと考えます。
少子高齢化の中、どんな業界においても人材不足は深刻な問題となっています。加えて、若年層を中心に労働市場の流動性が高まり、人材獲得競争においても売り手市場が続いています。新規人材の獲得においては自社がどれだけ魅力的に見えるかが大きなポイントとなってきています。
エンプロイメンタビリティ(Employment ability)という言葉があります。一言で言えば、「あの企業で働いてみたい」という魅力度や雇用能力のことです。企業で働く社員の就労観が多様化してきている中、全ての社員の実情に合わせた「働きやすさ」と「働きがい」を提供していくことが重要になってきています。単に報酬が高いだけではなく、快適な職場環境や自由度の高い就労形態などの「働きやすさ」は企業の魅力の一つになるでしょう。また、充実したキャリア支援や教育、報奨制度などは「働きがい」を喚起する魅力になります。とりわけ優秀な人材ほど自己のキャリア実現を第一に考えることが多く、組織目標と個人の自己実現をマッチングするための人事施策は、今や全ての企業で不可欠な要素です。
結局、最後には「自分らしい生き方を追求できる可能性や場を提供してくれるかどうか」が企業を選ぶ判断基準になると思います。だからこそ「選ばれる企業」を目指して、独自にエンプロイメンタビリティを高め、それを自社の特長として社内外にアピールしていくことが今後ますます重要になってくるのです。
今やたくさんの日本人選手がメジャーで活躍しています。球団は目先の収入や戦力のことだけでなく広い視野で将来の球団、球界の発展を考えて選手を送り出し、選手はそれに応えて新天地で活躍することによって球団や球界に恩返しする。球団経営同様、企業の経営においても、お互いがwin-winになるような制度設計が必要になってきているように感じます。
※1:日本の球団に所属する海外FA権を持たないプロ野球選手が、メジャーリーグなどへ移籍するための入札制度
※2:外国のいかなるプロ野球組織の球団も含め、国内外のいずれの球団とも選手契約を締結できる権利
※3:「西武」は埼玉西武ライオンズ、「オリックス」はオリックス・バファローズ、「日本ハム」は北海道日本ハムファイターズ
※4:1軍の「ベンチ入り」25人に入る資格を持つ40人の「ロースター枠」に入れない契約
※5:「ロースター枠」にその選手を入れることを保証した契約
※6:契約当時のレート
2024年12月
ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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