2024年06月01日
稀代のヒール、タイガー・ジェット・シン氏の叙勲
~役割に徹するための仮面~
ヒール(悪役レスラー)として新日本プロレスなどで活躍したタイガー・ジェット・シンさんが日本政府から令和6年春の外国人叙勲として旭日双光章が贈られることになりました。外国人プロレスラーではザ・デストロイヤーさん(17年)、ミル・マスカラスさん(21年)に次ぐ栄誉です。インド系カナダ人のシンさんは“インドの狂虎”と呼ばれ、22年に亡くなったアントニオ猪木さんと長年にわたってラフファイトを繰り広げたヒール中のヒールでした。
1973年に新日本プロレスに初参戦すると、頭にターバンを巻きサーベルを手にして極悪非道のファイトに徹し、猪木に凶器攻撃を繰り返しました。頭を上下に振りながらサーベル片手に入場するシンに、逃げ惑う観客の姿はお馴染みのシーンでした。
また、稀代の悪役だったためプロレスファンに物を投げられるのは日常茶飯事。シンが猪木の顔面に火の玉を投げつけて即刻反則負けになった時には、帰りのバスに乗り込もうとするシンにファンが汚い言葉で叫ぶと、そのファンを殴打したということもありました。しかし、それは“インドの狂虎”キャラを守るための行動。「さっきのファンは怪我しなかったか」と心配する一面もあったそうです。巡業先でもスポーツジムなどに行くことができず、ホテルの屋上を開けてもらってひっそりと練習しなければならないといった苦労も絶えませんでした。
シンさんが凶悪レスラーなのは、実は日本だけでのこと。地元カナダではベビーフェイス(善玉レスラー)であり、実業家として成功を収め、慈善事業にも積極的に取り組んでいました。教育への援助や福祉活動への寄付も含めた社会活動に参画し、2009年には公立学校「タイガー・ジェット・シン・パブリック・スクール」を開校。2010年には「タイガー・ジェット・シン財団」を設立し、翌年の東日本大震災時は200万円以上を同財団から寄付して日本政府から表彰もされました。
さて、例年、この時期になると話題になるのが5月病。人事異動や転勤によって人間関係や仕事内容が変わると、その変化に適応できず今までと違った疲労やストレスが生じて健康を害する人が出てきてしまいます。多くの場合、それまでの自分のやり方にとらわれ過ぎてしまって、新しい環境での仕事のやり方や考え方に切り替えられないことが原因となっています。
分析心理学にペルソナという用語があります。ペルソナとは元来、古典劇において役者が用いた仮面のことで、心理学者カール・グスタフ・ユングは人が周囲の環境に適応するために被る仮面(顔、ふるまい)としています。異動や転勤に際して、今までの仕事の仮面を捨てて、新たな環境に適応するための新しい仮面を被って、周囲から求められる役割を演じることが必要なのです。
新しい仮面を被って新しい役割を演じることは決して難しいことではありません。日本では「演じる」という表現は「嘘」の自分を装って見せているようで、あまり良い意味にとらえてもらえませんが、実は日頃から私たちはいろんな「自分」を演じています。
「この世は舞台、人は皆役者」とは、イギリスの劇作家ウィリアム・シェークスピアの有名な一節。人はその時々に何らかの役割を無意識のうちに演じているのです。例えば男性ならば、親の前では「息子」、妻の前では「夫」、子どもの前では「父親」など、日常生活の中で無意識に使い分けているのです。
仕事においても別の舞台で別の役を与えられたら、新たな気持ちで勉強し、与えられた役をプロフェッショナルとして精一杯演じきることが大切です。様々な役を積み重ねていくことで一流の役者すなわち一流のビジネスマンになっていくのではないでしょうか。
一方で、社員一人ひとりの能力を最大限活かすためには、会社から期待されている役割や自分の希望などに関して上司と気軽に会話できる、そんな職場環境が必要不可欠だと思います。
リング上ではヒールの仮面を被り、アントニオ猪木という大ヒーローとやりあい、観客を恐怖に震えさせてプロレス界を盛り上げたシンさん。リング外では日本を愛し、日本のために尽くしました。あれだけのヒールを演じきったのは、まさにプロフェッショナルの仕事だったと言えるでしょう。
今回の受章の知らせに「日本の全てのプロレスファンに与えられた栄誉だ。日本は第二の故郷であり、日本人は家族のような存在だからね」と喜んだそうです。
2024年6月
ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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