社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年02月01日

箱根駅伝、中央大学復活への道のり
~若手人材の成長に必要なもの~

クロッカス

今年1月2、3日に行われた第99回箱根駅伝は駒大が2年ぶり8度目の優勝を飾り、史上5校目の大学駅伝3冠を達成。レース後に退任を発表した名将・大八木弘明監督は見事に有終の美を飾りました。
2位には我が母校の中大が入りました。中大の出場回数96回、優勝回数14回はともにトップです。しかし、1996年を最後に優勝から遠ざかり、近年は予選会からの出場が続くなど低迷していました。
再建を託されて2016年に就任したOBの藤原正和監督は当時の選手の生活態度があまりに乱れていたことに驚いたそうです。寮の玄関や共有スペースは雑然としていて、掃除も管理も出来ていない状態。すぐに自身も寮に住むことを決め、食事などを共にするとともに選手と一緒に清掃や整頓を行いながら厳しく生活指導をはじめました。それでも選手の意識は改善されません。時間は守らず、練習中も緊張感がない。「同好会の方がちゃんとやっているくらいでした」と振り返ります。

中大は伝統的に選手の自主性を重んじる指導方針で、監督がメニューを作成して「あれをやれ」「これをやれ」と指示するような練習をしてきませんでした。年々、他校の競技力が向上して低迷をはじめると、自主性という名の甘え、気の緩みが出てきて、ますます成績は上がらなくなりました。「当時の上級生は、今までのやり方でも予選会を通って箱根を走ってきたので、変化を求める思考が停止していた」と藤原監督は言います。
そこで「チームを劇的に変える必要がある」と1年生を主将に抜てきしたのです。当然のようにOBの反発や上級生のモチベーションの低下といった影響はありましたが、「嫌われ役になってもいい」と信念を持って厳しく改革を進めました。しかし、迎えた2017年大会の予選会。中大は11位に終わり、本戦への連続出場がついに87回で途切れてしまいます。

それまでずっと結果を出してきた組織が、「自分たちのやり方は正しい」と思いこんでしまい周囲の変化に適応できなくなってしまう。これはどんな組織にでも起こりえることではないでしょうか。
特に学生のような若い集団には、過度な自主性を求めず、間違った方向にいかないように適切なタイミングで指導やアドバイスを与えることが不可欠です。方向修正のタイミングを逃すと、その後トップがいくら変革の旗を振り回しても簡単に変わるものではなく、また正しいことが必ずしも受け入れられるわけでもありません。組織風土変革に特効薬はなく、長い時間をかけて「当たり前」を少しずつ変えていくしか方法は無いのです。

中大の生活態度の乱れは高校の指導者の耳にも入り「中大には選手を行かせたくない」という声も囁かれるようになりました。それでも藤原監督の熱心な指導で生活習慣も改善、少しずつチームの雰囲気も変わり実力が上がってくると、中大の門をたたく有力選手も徐々に増えました。
そして2020年、同年代のトップを争う吉居大和選手が入学してきました。その時、上級生は「ヤバい奴が入ってきた。負けられない」と思ったそうです。また吉居選手の競技に対する意識の高さに周囲も自然と引きずられ、チーム全体の意識が上がったと言います。また、吉居選手の姿を見て「自分もあのようになりたい」と入学してくる選手も増えました。
今では「意識が低い選手がいたとしても、それが許されないことが分かって、強いチームのマインドに流されていくんです」と藤原監督は話します。組織風土改革の最後のピースは、箱根で2年連続区間賞を取ることとなる強烈なゲームチェンジャーだったのです。

情熱を持ち懸命に取り組む人は、周囲の人の心を動かします。その熱意により「気づいたら巻き込まれていた」という人が増え、組織は自然と動き出します。だんだん周囲の人も「自分もできる」と思えるようになり、最後は自分の意思で努力するようになります。こうやって芽生えた自主性は甘えや気の緩みではなく、メンバーの主体性やチームの活性化につながっていきます。
企業でもスポーツでも今の若者は進路を選ぶ際に、経営者とか指導者の言葉や実績よりも、職場やチームの雰囲気、社員や選手がどのようなことを言っているのかを重視しているそうです。またSNS等で簡単にそういう情報を入手できるため、モチベーションが高く活気のある組織やチームに自然と人材が集まってきます。そんな若者の流れは今後ますます加速していくと考えるべきでしょう。

最後にもう一つ。藤原監督は就任当初、トップダウンで厳しく接していた指導から、少しずつ対話を重ねて選手の意向も反映させながら、選手に寄り添う指導へと転換していったそうです。きっかけは「選手の話を聞いてあげているというけれど、聞くだけ聞いて反論して、それで押さえつけている気がする。もっと寄り添ってあげないと」という奥様の言葉でした。
人はそれぞれ性格やスキル、経験に違いがあり、育成の方法やアプローチも違います。だからこそ、指導者は相手の話に最後まで耳を傾け、それを受け入れ共感することからはじめるべきです。そして一人ひとりの気持ちに同調し、相手に合わせて教え方を工夫する、そんな寄り添う指導方法が、これからの時代を支える若者の成長を促すためには有効なのかもしれません。

2023年2月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読