社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年01月01日

“三笘の1ミリ”を生み出したビデオ判定の価値
~テクノロジーの客観性と人間の役割~

うさぎ

新年あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

昨年末はサッカーW杯で大変盛り上がりました。悲願のベスト8入りは果たせませんでしたが、優勝経験のあるドイツ、スペインと強豪を撃破した日本代表は多くの感動と興奮を与えてくれました。
中でも最も印象に残るのは、やはり“三笘の1ミリ”と呼ばれるスペイン戦の勝ち越しゴールでしょう。実際に試合を見ていて「残念だけど出ているな」と思った人も多かったと思いますが、判定にはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の最新技術が使われ得点が認められました。
いくら優秀な審判でも必ず死角があり、全てを見極めることはできません。一方、カメラを360度配置したビデオ判定は死角がなく正確な判定ができるようになります。また今回のW杯ではカメラによる映像に加え、公式球の中に埋め込まれたチップによってより正確にボールの位置を測定できるようにもなりました。

テニスの「ホークアイ」も昔から有名です。選手の「チャレンジ」によってビデオ判定が行われ、10台以上のカメラでボールの軌道を解析し、ライン際のボールがインなのかアウトなのかを瞬時に判定できるシステムです。同様にプロ野球でも監督の「リクエスト」によって審判の判定に対し映像での確認を求めることができます。
このようにビデオ判定によって正確性を保つことは、選手やファンの誤審に対するストレスの軽減にもつながり、今やスポーツ界ではビデオ判定が当たり前のものになりつつあります。

近年、スポーツの商業化が進み、誤審は試合の勝敗だけでなく、その後の選手のキャリアや審判の安全にも影響を及ぼします。一方でビデオ判定を支えるテクノロジーも年々飛躍的に進化しています。すでに、映像技術とAIによる判定システムが、生身の人間である審判に代わってゲームを進行させるべきではないか、といった議論も出ています。
人間が判定する以上、誤審はつきものですが、システムに委ねるとルールに対してより厳密に判定ができ、誤審もなくなります。しかしながら、ラグビーのように広いグラウンドで大人数がコンタクトするような競技の場合、ボールと関係ないところで起きた反則と思われる行為でいちいち止めていたら試合はスムーズに進みません。また、ルールでは想定されていない事象が起こった時にはどうなるのか、心配は尽きません。

そもそもラグビーなどのフットボールのゲームは、「祭り」から進化したと言われています。そして「ルール」は、祭りを安全かつスムーズに進行し、みんなが楽しむためにいわば自然発生的に誕生した決め事のようなものとも言えます。
道路交通法も同じで、要は車を安全かつスムーズに走行させるためのルールです。誤解を恐れずに言うと、制限速度を少々超えて運転しても(※1)、スムーズに走行していれば許容範囲内として問題視されることはないでしょう。警察も通常、注意喚起するだけで取り締まらないのです。だからこそ市民は車生活において、交通ルールに対してストレスを感じることがないのだと思います。
もし、全ての道路で全ての車の挙動が、交通ルールに厳しく照らし合わせてビデオ判定されているとしたら、どうでしょう。とかく日本人には「何事も厳格が良い」という思考がありますが、ルール厳守という強迫的心理がもたらす悪影響も必ず出てきます。

昨今、コンプライアンスが叫ばれ、企業は細かな数多くのルールを導入するようになりました。ただ、社員がルールに縛られすぎると、「ルールさえ守っていれば大丈夫」といった形式主義的な社員が増え、想定外の事象に対して柔軟に対応できなくなります。また、ルールが複雑になると、自分本位に解釈して抵触を回避する人間が社内で権力を持ち始めたりもします。
組織にも必ずルールが必要です。そしてルールは守らなければなりません。ただ、過度なルール偏重は創造的な活動を阻害し、組織の停滞を招いてしまいます。だからこそルールの細かさや厳しさを熟慮する必要があります。
社会も企業活動もこれから益々複雑性を増すでしょう。その中で「~してはならない」といった禁止事項を全て成文化することは不可能だと感じています。何でもかんでもルール化して、管理職が「性悪説」に立ち厳密に管理するやり方は、これからの時代にはマッチしないのではないでしょうか。

テクノロジーは、より「正確」で「公正」な判定をスポーツにもたらしました。特にフェアプレイ精神やスポーツマンシップに反する行為を監視することは、選手の安全を守る意味でもとても有効でした。一方で、過度な監視はスムーズな試合の進行を阻害し競技の魅力を奪い去る可能性もあります。だからこそ試合を円滑に進め、判定を下すのは良識を持った人間であるべきです。そこに最新のテクノロジーを駆使することで判定への納得感が増し、それぞれの競技の面白さと楽しさを追求できると思います。

ビジネスの世界でも人や社会を欺く行為など法令違反を抑制するために、監視、追跡技術を使って公正を保つことがますます重要になってきます。
当社においても、テクノロジーによる客観性と人間の良識による主観性をうまく組み合わせて、社員の主体的な働き方を尊重した社内ルールを、今年は考えてみたいと思っています。

※1:スピードメーターに表示される速度と実際の速度との誤差には、許容範囲があり、法律により規定されています。およそ30km/h以上の速度であれば、1、2km/hは誤差の範囲内に収まります。

2023年1月

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