社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年12月01日

カーリング日本代表の強さと選考方法
~組織の心理的安全性と新陳代謝~

氷原

サッカーW杯が始まりました。W杯優勝経験国はたった8か国。その一つであるドイツに勝利した「森保ジャパン」には本当に感動しました。また、野球では「侍ジャパン」も結成され来年3月のWBCに向けての準備が始まっています。一方で、日本代表を選抜チームで作らないスポーツもあります。その一つがカーリングです。

カーリングと言えば、今年2月の冬季北京五輪で史上初の銀メダルに輝いた女子日本代表「ロコ・ソラーレ」のメンバーの笑顔と涙に感動した方も多いと思いますが、2002年ソルトレーク五輪以来、日本代表チームは「チーム青森」「北海道銀行」「ロコ・ソラーレ」など国内の代表決定戦を勝ち抜いた単独チームが出場しています。
カーリングは他のスポーツ以上に戦略やチームワークが重要視されており、選抜チームよりも日頃からコミュニケーションを取って、戦略を理解し、実践しているメンバーの方が機能するからだと言われます。「スキップ」「サード」など各メンバーにそれぞれ明確な役割が与えられており、戦況に加えお互いの技術や考えを理解した上で、次の1投を制限時間内に決断しなければなりません。そのためには他のメンバーに躊躇なく自分の考えを伝え、その考えに対して遠慮なく意見を述べ、全員で素早く意思決定する必要があるからです。

Google のリサーチチームの発表(*1)では、チームの効果性に大きな影響を与える力学が 5つあるとしています。その中で一番重要なのは、「心理的安全性」だと言っています。「チームの心理的安全性」という概念は、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱。同氏はこの概念を「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え」と定義し、例として以下のような状態が「心理的安全性」をもたらすとしています。

  • チームの中でミスをしても非難されない。
  • チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
  • チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
  • メンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。
  • チームの他のメンバーに助けを求めることは難しくない。 など

ビジネスにおいて、突拍子もないアイデアやレベルの低い質問をしても、「バカじゃないのか」、「そんなことも知らないのか」などと誰からも言われることなく、また失敗しても同僚から叱責されることなく、前向きに話し合える環境こそが、組織作りのベースになるということです。
言い換えれば「上司や同僚から怒られないように」と思ってしまう時点で、持っている能力を発揮できず、最低限の仕事しかこなさなくなるということです。

北京五輪決勝で「ロコ・ソラーレ」を破ったイギリス代表は選抜チームでした。また先日、第1回アルゴグラフィックスカップでは、大学生の選抜チームが「ロコ・ソラーレ」を破る金星を挙げました。
日本代表チームも選抜チームにした方が強くなるのではという声は、代表の結果が出ない時に何度も上がったようです。早い段階でメンバーを決定し、長くチームとして活動すれば戦術理解もチームワークも深まり、前述の「心理的安全性」も醸成できるという考えです。
ただ、カーリングはバスケットなどに比べてもチームの人数が少ないために、代表として主力選手を抜かれると所属チームの成績に大きな影響が出てしまいます。最悪の場合、成績不振がスポンサー離れにつながり、チーム存続の危機にすらなってしまう可能性があるなど、様々な面で解決すべき課題も多いようです。
それでも、にわかファンとしては選考方法を変えてみて欲しいと思っています。スター選手が代表として揃って戦うことで注目度も高まり、さらなる人気を呼び、競技人口も増える、そんな可能性も十分にあるのではと思ってしまうのです。

企業活動においても、特に成果が出ている場合、ビジネスのやり方を変えることはとても難しいことです。なぜなら、まず現状を否定するには並々ならぬ覚悟が必要ですし、変えるためには大きな痛みを伴うこともあります。また失敗した時の責任問題もあります。
現状を守ることに注力してしまうと、新たなイノベーションなど創出できないことは、ほとんどの経営者はわかっているのに、大きな失敗がない限り現状維持され、いつの間にか組織や事業の存続そのものが目的化してしまいます。そうならないためにも外部から新しい人材を入れて新陳代謝する必要があると思います。

最後に、「ロコ・ソラーレ」のスキップ藤澤五月選手は元々「中部電力」所属でしたが、ソチ五輪の代表決定戦で「北海道銀行」に敗れた後、「ロコ・ソラーレ」を創設した本橋麻里選手に誘われて移籍。サードの吉田知那美選手はその「北海道銀行」からの移籍、リザーブの石崎琴美選手も「チーム青森」からの移籍です。本橋選手もトリノ五輪代表だった「チーム青森」を脱退しての新チーム結成でした。単独チームでの日本代表とはいえ、実はチーム作りの過程で脱退、移籍といった新陳代謝は頻繁に行われているのです。
現状維持を打破し、未来を切り拓き、組織が長期的に成長していくヒントを、「ロコ・ソラーレ」は教えてくれているようにも思えます。

*1:「効果的なチーム」とは何かを知る
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/#introduction

2022年12月

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