社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年10月01日

ラケットスポーツ選手の出場種目と専門性
~専門分化と多能工化の流れの中で~

コスモス

8月下旬から9月上旬にかけて、2週続けて日本でバドミントンの国際大会が行われました。8月22日~28日に東京で「世界バドミントン選手権」、8月30日~9月4日に大阪で「ジャパンオープン」。こんな過密日程で開催されるのは、他競技でもあまり聞いたことがありませんが、女子シングルスの第一人者、山口茜選手は2大会連続優勝。疲労もある中で世界ランク1位の貫禄を見せつけました。また混合ダブルスの「ワタガシ」ペアこと渡辺勇大、東野有紗ペアが両大会で銀メダルに輝きました。 あれだけ強い山口選手ならダブルスに出場しても勝ち上がれそうですが、そんな話は聞いたことがありませんし、逆に渡辺選手や東野選手がシングルスに出場することもなさそうです。

バドミントンはシングルスとダブルスでは基本的にコートの広さやサービスのルールが違い、ひとりでコート全体をカバーするために打球後は常に中央に戻らないといけないシングルスと、その必要はなくスピード重視で相手を圧倒しようとするダブルスではかなり戦略が異なるそうです。そのため、中学校の部活などで最初は両方でプレーしていても、レベルが上がってくるとどちらかに絞って練習するようになるようです。
言い換えれば、競技のレベルが高くなるにしたがって、そのレベルに適応するためにシングルスとダブルスは分業化、専門化されてきたと言えるでしょう。

ある一定のレベルを超えてくると、どんな仕事でも「専門分化」が求められるようになります。「専門分化」とは、複数の人や組織がそれぞれ専門性の高い特定の役割を担うことです。
近年、デジタル技術をはじめテクノロジーの進歩が目覚ましく、それに伴い産業や社会が急速に高度化・複雑化し、顧客のニーズも多様化しています。また国内のみならずグローバルな企業間競争において優位に立つためには、一つひとつの仕事において高度な知識とスキル、専門性を持つスペシャリストが求められるようになっています。様々な分野のスペシャリスト同士がお互いの専門能力を発揮し、協働で課題解決やイノベーションを導く共創型アプローチができるかどうかが、これからの企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。

当社でも多くの若手社員がスペシャリストを目指しています。ただ、スペシャリストとしてのキャリアを考えるといくつかの不安もあります。特に近年、技術はものすごいスピードで進化しています。例えば、ある特定の狭い技術の第一人者になったとしても、その技術が何年後かには陳腐化してしまい、その人の専門家としての価値もなくなってしまうということは珍しくありません。
加えて、AIやロボットなどの技術革新によって、これまで一定のスキルや知識を備えた人しかできなかった仕事が、コンピュータによって代替されるようになります。その結果、人間にはより総合的な判断や課題を発見する能力などが求められるようになるでしょう。
これからスペシャリストを目指す場合、プロジェクトマネジメントや課題発見力などの専門分野に関連するスキル、コンピテンシーも身につけて、やや幅の広い専門能力の獲得を意識することが大切だと思います。

さて、同じラケットスポーツでも卓球では、伊藤美誠選手が東京五輪の混合ダブルスで金メダル、シングルスで銅メダルを獲得。今年の全日本選手権でも女子ダブルスで優勝し、シングルスでもダブルスでペアを組んだ早田ひな選手を破って2冠に輝きました。
また最近は、専門分化が進んだ野球やサッカーなどでも、複数のポジションを守ることができる選手の価値が以前より高くなってきているのも事実です。

ビジネスの世界でも高度な専門性、スキルのある人材が求められる一方で、業種・職種によっては一人の働き手が複数の技術・技能を身につけて、状況に応じて複数の業務に対応できるようにする「多能工化(マルチスキル化)」も推進されています。少子高齢化の人手不足に加え、働き方改革への対応を進める中で、中小企業や人手不足感が強い業種では、限られた人員で生産性を向上するために積極的に「多能工化」に取り組んでいます。

企業は、高度なスペシャリスト人材を求めながらも、一方で多能工化を推進しています。ビジネスの栄枯盛衰が短期間に起こり、今後も社会環境や事業変革など様々な要因によって企業が求める人材像は変わってくるでしょう。
それでも今や、雇用そのものだけでは社員の幸せにはつながらない時代です。社員一人ひとりが自らのキャリアをデザインし、そこに近づくためのジョブアサインや働き方を企業が支援することで、社員の中長期的な幸せと企業の競争力の双方を高めることができるのではないかと考えています。

2022年10月

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