社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2021年06月01日

ラグビーにおける「闘争の倫理」と企業倫理
~ジャスティスとフェアネス~

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来シーズンから新リーグが創設されるため、最後のシーズンとなったジャパンラグビートップリーグ。我らが神戸製鋼コベルコスティーラーズは、5月9日のプレーオフトーナメント準々決勝でクボタに21-23と惜敗し、今季の戦いを終えました。トップリーグが創設された2003年度シーズンの初代王者で、2018年度に続く2連覇(2019年度は行われず)を目指していたチームにとって早すぎる終戦。リーグ戦とプレーオフの無敗記録も24試合でストップしました。
一度は逆転しながら、ひとり少ない相手に再逆転を許してのまさかの敗戦にフィフティーンの悔しさはどれほどだったでしょうか。それでも共同主将の元日本代表・日和佐篤選手は「勝ち続ける難しさを感じた」と潔く受け入れていました。

日々の苦しい練習に耐え、鍛え上げてきた選手たちは「勝ちたい」という強い思いで試合に向かいます。それは当然、激しいタックルやボールの奪い合いにつながります。しかし、スポーツ、特にラグビーなどのコンタクトスポーツにおいてはそこに「フェアプレーの精神」がなければ成り立ちません。
ラグビーの試合中、ころころと転がっているボールを獲得するため相手と競走になる。相手が一瞬早くボールに飛び込んだ、次の瞬間相手の頭をめがけて突っ込み、相手にダメージを与えボールを奪い返したとしても、ルール上では不可抗力として裁くことはできない。しかし、激突する瞬間、思わず、力を少し緩めて相手の頭を避けてぶつかる。
このような闘争の瞬間に、「こうしたら勝てる」という行為が思い浮かぶ一方で、「いや待てよ、それは汚い行為だからやらない」と自制する。この二律背反の行動を正しく選択し正しく行動することを、早稲田大学のラグビー部監督であった大西鐵之祐氏は、「闘争の倫理」として説いています。

我々ビジネスの世界でも「レッド・オーシャン」などと呼ばれるような企業の激しい生き残り競争が繰り広げられています。そして競争相手を打ち負かし勝利をわがものにするために手段を選ばず、汚くても非難されようとも、競争相手に勝てばよい、「勝てば官軍」的な考え方にしばしば遭遇します。
その考え方を戒めるのが、企業における「闘争の倫理」すなわち企業倫理です。近年、企業はコンプライアンス(法令遵守)を強化してきました。一方で倫理と法令とは密接な関係を持っていますが別のものになります。コンプライアンスとはその時代のルールを守ること。倫理とは、企業の場合、社是や社訓、経営理念がベースとなり、企業に属する一人ひとりの社員の判断基準や行動につながる普遍的なものです。

私が入社したIBMでは、IBMビジネス・コンダクト・ガイドライン(以下、BCG)というものがあります。内容はIBM社員のコンダクトすなわち「行ない」についての規範を細かく記載したもので、入社時にBCGを熟読し、これを遵守することにサインをします。入社後も毎年、内容を確認して遵守することを求められます。
「行動なき理念は無価値である」とは本田宗一郎氏の言葉です。ほとんどの企業において社員は経営理念を観念的には理解し受け入れています。しかしながら、その理念を社員自身の日常の行動に浸透させることは容易ではありません。
素晴らしい理念があっても、それを貫き具体的な行動に移し替えることができるかどうか、が重要です。そのためには企業の理念や倫理観をタテマエ化させず、社員の行動を継続的に律する仕組みも必要なのかもしれません。

厳しい練習を重ね、チームワークや戦術を強化しても、闘志を欠けば試合に勝てません。逆に、闘志に満ち、スキルも体力にも長け、強力なチームワークを築こうとも、モラルを著しく欠いては真の勝者になれません。ルール上は合法であっても汚いプレーをしない。真剣勝負の極限の状況下においても絶対にズルをしない。ジャスティス(合法性)だけでなくフェアネス(公正さ)を貫きプレーできることが、偉大なチームの絶対条件だと思います。
ビジネスの世界においても、経営者や社員一人ひとりが、自社の理念を自分の仕事の信念とし、どんな場面においてもその信念に従い正しいと思うことを貫き行動する、そんな組織風土をつくり上げることが、結果的には強い組織、企業をつくることになるのではないでしょうか。

※:IBMビジネス・コンダクト・ガイドライン
https://www.ibm.com/ibm/jp/ja/bcg.html

2021年6月

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