社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2021年05月01日

広島東洋カープに学ぶ人材育成
~指導者の覚悟と信頼関係~

野球場

社長に就任して一か月程経ちました。聖火リレーも始まり、少しだけオリンピックが迫っているように感じてきました。競泳・池江璃花子選手の復活も明るい話題です。ゴルフでは松山英樹選手が日本人初のマスターズ制覇を成し遂げました。オリンピックでの金メダルの期待も高まります。
大学までラグビーを続け、色々なスポーツをやること、見ることが好きな私にとって、多くのアスリートの活躍する姿に力をもらうとともに、スポーツの世界には今後の社業に対して学ぶべき点、ヒントになる話が数多くあると感じています。

3月下旬に無事開幕した今年のプロ野球では、地元神戸の野球ファンが元気です。それもそのはず、複数球団の指名を受けてプロ入りしたゴールデン・ルーキー、佐藤輝明内野手の活躍もあって阪神タイガースが首位を独走中(コラム執筆時点)です。
我々ITサービス業界においても人材獲得競争が過熱、最近では破格の年棒で入社する新卒社員の話題も増えてきました。一方で、当社を含め多くの企業は、破格の年棒で入社するゴールデン・ルーキー用の採用枠は持たず、入社後の社内教育の中で主力選手に育てることを目指しています。

ひと昔前は、プログラマーやオペレーターという下積みから始め、徒弟制度で先輩から学びながら、システムエンジニア、プロジェクトマネージャーへと「たたき上げ」の育成が、IT人材のキャリア開発では王道でした。乱暴な言い方をすると、このキャリア開発は受託型開発のような、あらかじめ成果物が決められているモノづくりの仕事を、終身雇用を前提に、ある程度固定化された組織、チームで、効率良く仕上げていくためには最適な育成システムであったのかもしれません。

しかしながら、現在のITサービス業界では、労働集約的要素の強い下流工程は海外移転されるとともにローコード開発の潮流もあり、今後はお客様と一体となって価値創造を目指すパートナーとしての真価を問われることになります。そのためには、専門的な技術・スキルだけでなく、お客様の業界・ビジネスそのものや業務プロセスに対する深い理解が求められます。加えて、お客様と適切なコミュニケーションや心のこもった対応が臨機応変にできる能力と、それを支える高いモチベーションが求められます。

はっきり言えることは、従来の「たたき上げ」とは違った新たなキャリア開発や人材育成の仕組みが必要になってきているということです。変革のパートナーとしてお客様に認めて頂く人材を育成するためには、お客様の現場でしか得られない実戦スキルをどうやって獲得していくかが重要になると思います。

日本のプロ野球では資金力に乏しく、毎年のように主力選手が流出、退団しながらもセ・リーグで2016年から3連覇を達成した広島東洋カープの育成力が注目されてきました。ドラフト会議では他球団と競合しそうな目玉選手は、ほとんど指名しない。メジャー移籍した前田健太選手や黒田博樹選手など、ぽっかりと空いた穴をFAや大物外国人の獲得で埋めるのではなく、自前の若手選手を徹底的に鍛えることで主力選手に育て上げました。

まだ早いと思うような選手でも多少のミスには目をつむって試合で使う。2軍などで十分な実力を身に付けてから起用するのではなく、あえて一定期間は結果が出なくてもポジションを与えて実戦経験を積ませる育成方法です。
チームの柱となる選手に育成したいのならば、壁にぶつかった時でも試合から逃げることを許さず、結果を出すことで、自分自身で乗り越えさせるのです。ミスが続けば周囲の声も厳しくなり、本人も2軍に落としてもらった方が楽だと思うこともあるでしょう。しかし、それでも使い続ける。指導者と選手ともに相当の覚悟が必要です。

この育成方法の目指すところは、選手が実戦経験を積むことで自分の足りない部分を肌で感じ、やらされるのではなく、自分から率先して練習するようになることだと思います。加えて、レギュラーポジションに空きができた時に「チャンスだ!」と思うか「どうせまた大物外国人かFAで選手を取るんだろう」と思うか、モチベーションの違いは今後の成長の度合いにも直結してくるのではないでしょうか。

大切なことは、監督すなわち上司側が矢面に立って外圧を排除する覚悟です。上層部や株主からの短期業績への要求、お客様や同僚からの日々の業務への要求など上下左右からの圧力に対して、覚悟をもって対峙するとともに、個人の成長と組織の評価とのバランスを取ることが、人材育成において上司の大事な役割なのです。
選手すなわち社員側の覚悟も必要です。「自分はこの道で自立したプロフェッショナルとして生きていく。そのためには足りないものをどん欲に吸収し身につけていく」という非常に高いモチベーションがなければ、高度な専門知識と優れた顧客対応能力を維持向上させることはできません。見せかけのやる気では通用しません。

いかに才能の小さな芽を見つけ、大きな花を咲かせるか。経営者や上司の力量は、その人の可能性を少しでも多く引き出すところにあります。
そして、手取り足取り「育てる」のではなく、「育つ」環境を与え、その環境を外圧から守り、プロとしての高いモチベーションを維持させることができるか、これが企業の人材育成力なのかもしれません。そこには指導する側とされる側のお互いの覚悟と両者の間の強い信頼関係が前提であることは言うまでもありません。

2021年5月

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