ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2008年07月01日

製造業における「トレーサビリティ」について

「トレーサビリティ」という言葉で、皆さんは何を思われるでしょうか?
この言葉を有名にしたのは、BSE(牛海綿状脳症)問題への対応として、2003年農林水産省が導入した「牛肉のトレーサビリティ」です。これを契機に、産地・流通経路といった食に対する消費者の安心・安全の関心は非常に高いものになっています。
一方製造業においても、ここ数年ガス機器や家電製品・事務機器といった一般製品において、欠陥による事故や不具合の発生の報道が目立つようになりました。その結果、安心・安全の観点から品質問題が論じられることが多くなってきています。その際必ずと言ってもよいほど耳にする言葉に「トレーサビリティ」があります。今回は、製造業における「トレーサビリティ」についてお話します。

1.「トレーサビリティ」とは

英語のtrace(追跡)と、ability(できること)を組み合わせた言葉で、「追跡可能性」「生産履歴追跡」などと訳されます。製造業においては、原材料調達・部品調達から加工、組立、流通、販売の各段階において、製造者・仕入先・販売元などを記録保管し、私たちが手にする製造物の製造履歴を追跡できるようにすることが目的となります。

国際品質管理規準 ISO 8402 によるトレーサビリティの定義は、製品上に表示されている予め定義された識別性をもとに、その製品の生産場所、生産過程、利用法を追跡していくシステムとなっています。


図1.トレーサビリティの概念

2.今「トレーサビリティ」が注目されるのはなぜか

製品に欠陥や不具合等の品質問題が発生した場合、当事者である企業がすばやく有効な対策を打たないと、いたずらに消費者や取引先の不信感を高めてしまうことになります。
それでは、有効な対策とはどのようなものでしょうか?
昨年5月施行された「改正消費生活用製品安全法」では、消費生活用製品事故が発生した場合の再発防止策としては製品・部品の無償交換である「リコール」を行うことを大原則としています。わが国におけるリコール制度は、1969年に制定された自動車リコール制度が最初で、法的強制力のある唯一のものでした。この「改正消費生活用製品安全法」の施行により一般の消費生活用製品にも「リコール」が義務付けられたこととなります。これを受け、他の製品においても、「リコール」で対応する傾向が強くなっています。
この「リコール」を実施する場合、対象製品を特定しできるだけ限定することが非常に重要となります。すなわち品質問題を支援するとして「トレーサビリティ」が注目されています。

3.品質問題を支援する「トレーサビリティ」

「リコール」等品質問題発生が発生した時には、対象となる製品を特定する必要があります。そのためには不具合が、使用した特定の原材料に起因しているのか、特定の設計仕様の部品に起因しているのか真の原因を究明した上で、原因となる原材料・部品を使用した製品がどのような時期・経路で市場に出ているのかを調査することとなります。この調査が迅速・精確にできないと、対象製品を広げざるを得ず、投網を打つようなリコールを行なうことになり、お客様が混乱するばかりではなく、莫大な費用がかかってしまいます。

真の原因の究明は、製品を構成する部品ごとに原材料の観点・設計仕様の観点から行われます。このプロセスは、「製品構成の追跡管理」とも呼ばれます。また、該当製品がどのような時期・経路で市場に出て、消費者の手元にある製品量はいくらかといった調査プロセスは、「製品流通の追跡管理」とも呼ばれます。図1トレーサビリティの概念に示すように、「製品構成の追跡管理」と「製品流通の追跡管理」とが連動して初めて一気通貫性のある製品追跡管理の仕組みが確立されることとなります。

一般的に製造業の「トレーサビリティ」では、このように素材から消費者まで一気通貫の製品追跡が要求されるわけです。しかしながら、個々の企業においては、自社の製品特性(組立品か単品か、消費者向けかメーカー向けか、満足すべき規格・安全基準等)により、要求される「トレーサビリティ」のレベルは異なります。自社に必要とされるレベルを見極め、最適な「トレーサビリティ」の仕組みを構築して行くことが、品質も含めて安心・安全への関心が高まっているこの時代、企業の社会的責任の一つとなっていると言えます。

次回は、製造業における「トレーサビリティ」のポイントについて解説いたします。

2008年7月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読