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2015年06月01日

オープン・イノベーションを阻む4つの壁

企業がオープン・イノベーションを推進していくには、大きく4つの壁を超える必要があります。

オープン・イノベーションを阻む4つの壁

1.「自前主義」の壁
企業の技術者は本来自前主義で、社外の技術を使うことに積極的ではありません。さらに、「社外の技術を使うようになると、結局自分の職を失うのでは」とネガティブに考えます。

2.「曖昧な技術ニーズ」の壁
これまで社内でのみ研究開発してきたため、社外に求めるべき技術は曖昧な状態です。また、これまで研究開発がうまく進んでいなかった領域の技術ニーズは明確でなく、こちらの意図を相手に伝えることもできません。

3.「手探りの探索」の壁
全く面識のない社外組織が保有する技術から、自社ニーズにマッチする技術を探し出すのは容易ではありません。幅広くグローバルに探すといっても、自社ネットワークで有望な技術は簡単に見つけられません。一方、社外の仲介業者に頼り過ぎると高い費用が必要となります。

4.「長引く採否決定」の壁
候補となる有望技術の情報は限られ、どうしても採否決定に慎重になってしまい、結局話がまとまりません。

では、これら4つの壁を越えるにはどうすればいいのでしょうか?既にオープン・イノベーションで成果を上げている企業の取り組み例を参考に、その方策を見てみます。

まず、最初の「自前主義」の壁は越えるには、オープン・イノベーションに対する経営者のリーダーシップが不可欠です。例えば、中期計画にはオープン・イノベーションへの取り組みを明記し、高い数値目標を掲げます。オープン・イノベーションの専任組織を設置し、担当役員を任命することは経営者の本気度を示せるとともに、推進の原動力となります。ある企業では、社内に先んじて新聞紙面を通して自社のオープン・イノベーションの取り組みメッセージを社外に公表することで、社員に経営者としての覚悟を示すことができました。主要な社内会議では、継続的にオープン・イノベーションの重要性を訴えていく必要があります。「他社に先駆けて市場に製品投入することが何より重要であり、自前に拘って他社に先を越されてしまっては全く意味がない」ことを社員に分かってもらう必要があります。社内でオープン・イノベーションの成功事例をいち早く作り上げ、他部門にもその成果を具体的に見せることができれば、社員の意識も変わっていきます。また、社外技術の活用度や成果を技術者の評価制度に組み込むことは、オープン・イノベーションへの動機づけになります。

2つめの「曖昧な技術ニーズ」の壁を越えるには、まず社内で取り組むべきコア技術を明確にすることにより、社外に求めるべき不足技術も見えてきます。全社視点で社外に求める技術リストを作り上げ、社外の技術者でも自社が何を求めているか理解できるように、丁寧かつ明確に記載する必要があります。

3つ目の「手探りの探索」の壁を越えるには、自社による探索と社外の仲介業者をうまく併用していきます。まずは、大学や専門機関が公表している論文や特許データベースで探したり、既に協業実績のあるパートナーとの人的ネットワークで探索します。最近は様々なデータベースが提供されているため、これらを効率よく検索するスキルを磨く必要があります。もう一つの有効な探索方法はHPによる募集です。協業の意思がある提案が応募されるため、一般的データベースでの探索よりも有望な技術候補となります。このHPでの募集ではその認知度を高める工夫が必要です。一方、必要な技術のスペックが絞り込まれている場合は、仲介業者の持つ社外ネットワークを使ってグローバルに探索することで、短期間で効果的に技術を探せます。この場合は自社名を出すことなく、匿名で探すこともできます。

最後の「長引く採否決定」の壁を越える方策として、まず有望技術の採否を評価する際の手順を確立しておきます。そのための評価の観点やチェック方法も予め整備しておきます。相手にとっても技術を提供するメリットがある、Win-Winの魅力的な条件の用意も必要です。有望技術の採否評価を段取り良く進め、合意していくには、技術知識だけでなく、グローバルなビジネス交渉や法務、知財の知識をもったメンバーからなるチーム体制を作り、その経験・ノウハウを蓄積していく必要があります。

オープン・イノベーションは歴史も浅く、その手法はまだ確立していませんが、日本企業にとってこのような先進企業の方策は大いに参考になると考えます。


2015年6月

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