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2013年08月01日

バリューチェーンと価値提供

これまでバリューチェーンについて何回か触れてきましたが、今回は改めて「バリューチェーンとは何か」について説明します。

バリューチェーンは、ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱した考え方で、企業の競争優位の源泉を明らかにするために企業の内部環境を分析するモデルです。バリューチェーンは図1.のように「価値をつくる活動」と「マージン」からなり、マージンはお客様が商品に支払う対価(総価値)から活動の総コストを差し引いたものとなります。活動は主活動と支援活動に分けられ、メーカーの主活動は商品をお客様に届けるまでの購買や製造、販売などの活動から成ります。支援活動は調達や技術開発、人事・労務管理などの活動が含まれ、主活動を支援することになります。バリューチェーンをわかりやすく主活動のみで表現することも多く、これまでのコラムで触れてきたバリューチェーン例も、製造業の主活動のみを表現したものです。

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 図1.バリューチェーン
出典:マイケル・ポーター「競争優位の戦略」ダイヤモンド社(1985)を基に編集

企業は主活動を通してどのように価値を提供していくのか、コンビニで売られる加工食品を例に見てみましょう。まず、素材が加工されて加工食品が作られ、一旦工場の倉庫に保管されます。次に加工食品は工場の倉庫から家の近くのコンビニエンスストアに配送され、棚に並べて消費者に販売されます。こうして消費者は加工食品そのものと、いつでも買えるという利便性の価値に対価を支払います。消費者に価値を提供するのは必ずしも主活動のみではありません。新鮮な旬の素材を提供する調達先の確保やコンビニエンスストアでの売れ筋を瞬時に工場に伝え品切れを防ぐ情報システムの構築・運営など、支援活動の巧拙も企業が提供する価値の大きさを左右します。

バリューチェーンに似た概念に「サプライチェーン(供給連鎖)」があります。サプライチェーンとは、ある製品の原材料が生産されてから最終消費者に届くまでのプロセスを指し、最近は新聞などでもよく見かける言葉です。製造業におけるサプライチェーンはバリューチェーンの主活動と近い意味を持ちますが、サプライチェーンは原材料や製品といった「ものの供給」に焦点をあてています。また、サプライチェーンは納期や在庫、コストの最適化を目的としており、「商品企画」や「ソリューション提供」などの活動は含まれません。従って、製造業のものづくりとコトづくりのあり方を検討するためのモデルとしては、価値の提供に焦点を当てたバリューチェーンが適しています。

バリューチェーンは、もともと一つの企業がそのお客様への価値をつくるための活動をモデル化しています。しかし、実際は最終顧客への価値提供が1社のみで完結することは少なく、商品が最終顧客に届くまでには複数の企業が関わります。家電製品が消費者に届くまでの例を見てみましょう(図2)。

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図2.家電製品が小売店に届くまで

部品メーカーが電子部品などを製造し、家電メーカーがそれを購買し、組立てることによって家電製品が出来上がり、それらを量販店など小売が仕入れ、消費者に販売されていきます。ポーター教授はこのように複数の企業にまたがるバリューチェーンを「バリューシステム」と呼んでいます。これを広義のバリューチェーンとして扱っていくことにします。

顧客・市場や競合状態、法規制やテクノロジーの進歩など、企業を取り巻く外部環境に大きな変化が起こると、企業はこれまでの社内活動のあり方を見直す必要に迫られます。このようなとき、バリューチェーンは企業や業界の全体を俯瞰し、その強みや弱みを分析し、最適な設計をするために役立ちます。

メーカーがバリューチェーンの川下にある小売や問屋に頼り過ぎると、自社製品が最終顧客からどのような評価を受けているのかという生の声を聞けなくなります。また、上流に位置する部品メーカーや原材料商社に頼り過ぎると、革新的なものづくりができなくなってしまいます。一方で、顧客や市場のニーズに素早く対応するためには、社外の強みをうまく活用する必要があります。ものづくりとコトづくりを共に高めていくために、企業は自社にとって最適なバリューチェーンを設計していくことが求められます。

次回はバリューチェーンについてもう少し考察していきます。

2013年8月

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