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2023年02月01日

製造業のDX成功事例
~4年前と今~

日本の製造業のDXは、金融・保険、社会インフラ、サービス業など他業種に比べ、総じて遅れているようです。一方で、2022年6月に経産省が選定したDX銘柄(※1)企業33社を見ると製造業が約3分の1を占めています。業界全体としては遅れをとっているものの、先んじて成功している企業も多いという状況が見えます。DXの必要性や重要性は分かってきました。しかし「では、自社が目指すDXは?」という根本が未だに悩みどころである企業は結構多いようです。そのとき参考とすべきは、同じ業種の成功事例です。DXで先を行く同業の成功事例は、自社版DXの具体的なゴールイメージを描き、関係者間で検討する際のモデルとして、大変役立ちます。DXが騒がれ始めた4年前には、DX成功事例となると“GAFA”が紋切り型の答えでした。そこで当コラム(※2)では、「こんな成功事例があれば良いな」という基準を定めた上で、その時点の製造業におけるDX成功事例を探してみました。今回は、その成功事例を現在にアップデートしてみます。

4年前のDX成功事例候補と今図表1:4年前のDX成功事例候補と今
(クリックして拡大できます) 

【分類A:B2C向けプラットフォーム】
プラットフォーマとして増々巨大化するGAFAが今でも成功事例であり、その領域は更に拡大しています。膨大な利用者データを収集し、新しいサービスにつなげることで、GAFAのビジネスは一般個人にとって生活のインフラとなっています。さらに、企業にとってもITサービスを展開する際には、GAFAのプラットフォームに頼るケースが増えてきています。最近は、デバイスであるスマートフォンやスマートウォッチも、データ取集・活用するプラットフォームになり、新たなサービスが次々と提供されています。このように、GAFAはデジタル技術を駆使したビジネスモデルの革新性と圧倒的な事業収益力からDX成功事例の先端に立っています。但し、時計や電話などハードを製造しているといっても、製造業の事例とは言い難いです。GAFAは社会や経済に対してあまりに大きな影響力を持ち過ぎたため、今後は個人情報の扱いや独禁法、課税面で規制が強くなっていきます。そのような環境下でも、どのようにビジネスモデルを進化させていくのか楽しみです。

【分類B:家電や自動車、建機向けIoTプラットフォーム】
Amazon Echoに代表されるスマートスピーカーは、4年前は日本でも一気に普及すると見ていました。しかし、この数年の普及率は10%程度に止まり、伸び悩んでいます。前提となるIoT家電の出荷数も、この4年間の日本での年平均成長率は12%と拡大しているものの、世界に比べると遅れています。テレビや給湯器、エアコン、インターホンをネットにつなぐ際の導入作業やランニング費用を超えるメリットをまだ示せていません。米国に比べ、家屋サイズや犯罪率の低さなど日本特有の要因もあります。利用者にとって、「あれば便利かもしれないけど、別になくても困らない」サービスに止まっています。建設IoTのLandlogは、建設業界の労働力不足などの社会問題を解消し、生産性と安全性を高める、極めて有望なビジネスモデルとして成功事例候補に挙げました。成功事例の基準となる大きな成果を上げるには、大規模の現場だけでなく中小規模での利用まで広げる必要があります。家電IoTと建設IoTのどちらも、成功のキーとなるのは利用者にとって価値の高いサービス提供です。高付加価値なビジネスモデルへもう一段階上げるためには、様々なサービス提供者を惹きつけるオープンなAPI、そしてIoTを通して得られるデータ活用基盤やサポート体制が課題となります。

【分類C:産業用機械や設備向けIoTプラットフォーム】
4年前はGE社のPredixやシーメンス社のMindSphereなどを成功事例としていました。現在、産業用IoTは着実に広がっていますが、期待した上昇気流になかなか乗ることが出来ていません。当時あれだけ万全を期して投入されたと思われたPredixサービスが停滞するのを見ると、改めて製造業のDXの難しさを感じます。B2Bビジネスモデル変革は、ビジネス成果を上げるまでにはそれなりの期間を要するようです。機械や設備向けIoTプラットフォームが企業にとって不可欠なもので、同時に社外のIoTプラットフォームを利用する方が、自社で開発・運用するよりも価値が高い、と思わせることが課題です。

【分類D:スマートファクトリー】
このビジネスモデルは、製造業DXの代名詞となるスマートファクトリーです。4年前には先行して成果を出していたドイツのIndustrie4.0(第4次産業革命)を成功事例としました。例えば、アディダス社の「スピードファクトリー」は、ロボット等による全自動化で、設計から店舗までのリードタイムを大幅短縮し、工場のドイツ国内回帰を実現する成功事例になるものと見ていました。しかし、残念ながらIndustrie4.0は当初期待された画期的な成果をはっきり出せないまま、DXと同化してしまいました。最近日本でも、AIによる熟練技の継承、ビッグデータによる品質向上、IoTによる人と設備の生産性・稼働率向上など、個々の領域における製造業の本質的な諸課題に対し、スマートファクトリー事例が増えてきました。PoC・パイロット段階を脱し、実用化段階での成果も出てきました。今後、業務プロセスを跨る、第3者に分かり易く、インパクトのあるスマートファクトリー成功事例が待たれます。

この4年間で製造業のDXは着実に進み、客観的で分かり易い成果を出す事例も増えてきました。今後、この流れを加速していくためには、分類B/CのDXでは、プラットフォームとしての価値を高めていくビジネスモデル変革が必要です。また、分類DのDXについては業務プロセス全体の変革が必要となります。これらの変革を通して、日本の製造業のDXが本格化し、多くの成功事例が出てくることを期待します。

※1:経済産業省『「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を選定しました!』
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220607001/20220607001.html

※2:デジタル化とものづくり⑩~製造業のデジタル化成功事例は?~(2019/7/1)
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20190701/

2023年2月

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