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2023年03月01日

組織横断のデータ活用はDX推進のバロメーター

2018年のDXレポートで「2025年の崖」が騒ぎ出されてから、早くも5年経とうとしています。皆さんの会社でも様々なDXの取り組みをされていると思いますが、果たしてDXの成果を実感できているでしょうか?各種調査を見ても、自社のDXを実感できている企業は未だに2~3割程度に止まり、しかもここ数年あまり増えていません。レガシーシステムもまだ多くの企業が抱えているようです。このように苦戦している企業が多い現状から、そろそろ「DXリスタート」の声が出るようになってきました。

DXが進まない原因を見ると、人材不足や経営層からのビジョンや戦略欠如などが上位に指摘されています。このように原因を”人ごと“とすると解決が難しく、時間もかかります。そこで注目したい調査結果の分析の一つが、DX進捗とデータ活用の相関関係です。DX推進している企業ほど、組織横断的にデータ活用できる環境を有し、現場で利用できていることが分かっています。確かに、DXの根幹はデジタル技術とデータの活用であり、その度合がDX推進のバロメーターと見ることができます。

DX推進のバロメーターとなるデータ活用の度合図1:DX推進のバロメーターとなるデータ活用の度合
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特に製造業は、金融や小売りに比べると、組織横断的にデータを活用する環境作りが遅れています。製販部門間の情報連携の悪さは、大半の企業に見られる問題です。同じく、サービス部門がお客様から受ける問い合わせや修理現場で得られるデータは、製造や開発、営業など各部門でも有用と分かっていながら、活用はあまり進んでいません。工場内の製造設備からのIoTデータは活用され出しましたが、お客様に設置された機器のIoTデータになると、入手する段階から容易に進みません。

このような組織横断のデータ活用と合わせて、非構造化データの活用も進めていく必要があります。基幹システムでカバーされるバックヤードの業務データは構造化されていますが、マーケティング部門、サービス部門やコンタクトセンターで発生するフロントヤードのデータの多くは、音声・画像、WEBアクセスログ、IoTデータなどといった非構造化データです。非構造化データは複雑で、そのまま分析に使えるものではありませんが、組織横断の活用には、このようなデータの活用が不可欠となっていきます。

このように組織横断のデータ活用といっても、組織の壁は高く、業務役割が違う、顧客層が違う、事業が違う、そして秘匿性が高いといった様々な理屈から、簡単には進みません。データ活用の主役はいうまでもなく各部門ですが、その供給はIT部門が担うことが一般的です。つまり、各部門が活用できるデータは、現在供給されているデータに限られ、それら以外にどのようなデータが存在し、利用できるか知り得ません。組織内にどんなデータがどこにあるのか、図書館で本を探すときのカタログのようなものはありません。さらに、色々な部門から発生するデータの形式・内容は当然バラバラです。表記の揺れもあれば、グルーピングやカテゴリー分けも異なります。センサーデータは複雑な構造をもつ非構造化データです。そこで、これらを良質なデータに加工・整形し、利用用途に応じた形式に統一するデータ統合が必要となります。実は、データサイエンティストが分析に要する時間の大半はこういったデータの準備に費やされます。組織を跨って有益なデータがタイムリーに供給され、活用できる環境づくりが求められます。今後はパブリッククラウドなどデータソースが分散化し、同時に分析用途も多様化していきます。組織横断のデータ活用を促進するには、データソースからデータ活用までの流れを迅速かつ機動的に構築し、分析前のデータ準備の工数と時間を大幅に削減することが重要課題となります。そして、データ活用が拡大していくと、データのアクセス管理やガバナンスも課題となってきます。

組織横断のデータ活用とデジタル技術図2:組織横断のデータ活用とデジタル技術
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DXでは、このような課題解決に利用すべきものがデジタル技術です。データの収集から、保管、加工・整形、統合そして蓄積には、データレイクやETLツールやデータウエアハウスといった技術が進化し、利用し易くなっています。企業内で保有するデータの発生元やデータ定義、利用方法などデータに関する情報を管理するデータカタログ技術がまだ少数ながら採用され出しました。これまでのETLツールでデータ加工・整形・統合するにはプログラミングが必要であり、IT部門の関与が必要でした。最近は各部門のデータ分析担当者自身がマウス操作だけで思い通りにデータ準備できる、データプレパレーション技術も利用可能です。また、データ活用までの準備工程をシームレスに一本化し、効率化してくれるデータ・パイプラインという仕組みが提供されています。自社の課題に応じたデジタル技術をうまく使っていくことで、部門横断のデータ活用はもっと進めていけるはずです。

組織横断のデータ活用は社内に止まることなく、社外の顧客や取引先、ビジネスパートナーまで拡張していくことで、より高い価値、新たな価値を創出していくことが期待できます。一方で、社外も含めたデータ利用となると、そのルールや条件などから難度が一段上がります。企業を越えることで新しい価値を切り拓いていくことを優先し、まずは協業できる範囲から進めていくアプローチがDXです。最近のDXレポートでは、各企業個別のDXではなく、デジタル技術を活用しながら業界の中でエコシステムを構築する「デジタル産業」が推奨されています。各社がデジタル産業を目指すのか否かは別にして、DXの視点を社内のみから、社外へも向けることは重要です。

DXにおける競争優位性は個人や部門単位の強みに頼るのではなく、組織全体で実現し、発揮すべきものです。その際には、組織や企業を横断して広範囲にデータを共有し、活用できているかが重要となっていきます。DX推進に悩む企業は、改めて組織横断のデータ活用に注力されることをお勧めします。

2023年3月

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