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2022年06月01日

スマートファクトリーで成果を出すには
~ロードマップ立案の奨め~

製造業のDXと言えば、一番手に来るのがスマートファクトリーであり、製造業のDX≒スマートファクトリーといっても過言ではありません。日本の製造業では新たな競争環境や深刻な人手不足もあり、工場のデジタル化の取り組みが広がってきました。このようにスマートファクトリーは製造業にとって最重要事項である一方で、なかなか進まない、成果が出ないといった課題を抱える企業が多いようです。結果的に活動の縮小、取り組みの頓挫へと至ることになります。今回はスマートファクトリー化が成果につながらない理由、そしてその具体的な解決策となるロードマップ立案について考察します。
まず、スマートファクトリー化が成果に結びつかない理由は色々ありますが、中でも次の2つが主な要因で、かつ重大な阻害要因と考えます。

要因1:不明確な目的・目標
スマートファクトリー化の目的が、生産ラインや工場、企業経営レベルにおいて明確に設定されていないと、成果を出すのは難しくなります。当初盛り上がったPoCだけで終わってしまう、俗にいう“PoC倒れ”のプロジェクトが散見されます。例えば、技術ありきで取り組み出すと技術が分かってきた段階で目的を見失いがちです。まずは生産現場のデータを収集し、実態の見える化から始めたプロジェクトも同様です。そもそもPoCやデータ収集・分析・最適化、そしてスマートファクトリー化そのものも、全て手段であり目的ではありません。

要因2:物足りない効果
現場部門はそれぞれの製造ラインの間接工数削減や設備の稼働率向上など、身近な改善効果に着目しがちです。スモールスタートすることは良いのですが、スモールなままの取り組みがバラバラと出てきても、それぞれが生み出す改善効果だけでは、経営インパクトに欠けます。製造工程が抱えるボトルネック解消による生産性の大幅向上や、これまで発生していた生産停止に至る事態の未然防止、といった分かり易い効果につながれば別ですが、見える化による改善の集まりでは経営的には物足りません。スマートファクトリー化を本格化していくために必要となる設備やシステム、サービス面の大きな投資に見合う効果が示せません。

そこで、これら阻害要因に対する有効策としてお奨めするのがロードマップ立案です。スマートファクトリー・ロードマップとは、スマートファクトリー化により自社が目指す姿・目的、そしてそこに向かうための道筋を表します。

スマートファクトリー・ロードマップのイメージ図:スマートファクトリー・ロードマップのイメージ
(クリックして拡大できます) 

スマートファクトリー・ロードマップの立案は、目指す目的とスマート化レベルの2軸で検討していきます。まず目的については、スピードやコスト、生産性の向上や、品質向上、付加価値増大などが挙げられます。これらの目的は多くのものづくり企業にとって該当するものですが、各社や工場により優先度、到達すべき目標レベルは当然異なります。もう一つの軸はスマート化のレベルです。例えば、データ活用においては、「データ収集」から「データ分析・予測」へ、そして「データによる最適化・制御」へとスマート化のレベルを上げていきます。可視化であれば、「結果の可視化」から「原因の可視化」、そして「将来の可視化」へ上げていきます。
また、この自社スマートファクトリー・ロードマップの検討の仕方は、目指す姿から見てそこに至るためのマイルストンとなる目的・目標を設定していく、バックキャストです。小さな成果から大きな成果へと積み上げるのではなく、大きな目的・目標をブレークダウンして個別の活動としていく逆算のアプローチです。

スマートファクトリーという言葉が社内で広く使われていても、その目指す姿やそこへ向かう道筋は、立場や部門で異なって混在しているのではないでしょうか?自社としてのスマートファクトリー・ロードマップを明確にすることで、経営陣と現場の話がかみ合うようになり、部門毎の取り組みの不整合や重複も回避できます。自社スマートファクトリー・ロードマップを理解しながらPoCを行えば、その先の大きな目的・目標につなげていくことができます。全体最適の枠組みを踏まえつつ、各部門は、身近な見える化から進めることができます。現場力を強みとする日本の製造業では、トップダウン的に目的をブレークダウンして現場に落とすだけの進め方は向きません。ボトムアップ的に現場の見える化を進めつつ、経営視点の目的・目標に向けた取り組みにつないでいき、一連の取り組みとしてまとめていく場合にもロードマップは有効となります。実はスマートファクトリーが注目され出した当初からロードマップの必要性は叫ばれていましたが、あまり実践されていないようです。“Think big, act small”の考え方は、スマートファクトリー化でも当てはまります。これからスマートファクトリー化に取り組もうとしている企業、そして既に取り組んでいる企業も、今こそロードマップの価値を再考し、確実に成果を出していくことを期待します。

2022年6月

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