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2019年10月01日

デジタル化とものづくり⑬
~自社にとって「2025年の崖」とは~

最近「2025年の崖」 という言葉を目にする方が多いのではないでしょうか?「2025年の崖」は、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(経済産業省が平成30年9月7日公表)※1で使われている言葉です。少しドキッとさせる表現で、ITに関するセミナーや企業のIT投資の上申書等でよく引用されています。内容的にも、日本企業のITが抱える構造的問題を、ユーザー企業とITベンダー企業の両視点から整理・分析しており、色々な立場の人にとって参考となるレポートです。このように多くの人に注目され、話題となっている点でレポートとしての価値があることは間違いないのですが、キーとなる「2025年の崖」の部分に限っては、共感できない人、危機意識を感じない人もかなりいるようで、なぜか非製造業よりも製造業の人たちに多いようです。実は筆者もレポートは大いに評価しつつ、「2025年の崖」にはそのまま共感できない一人です。今回はこのような「2025年の崖」に抱いている疑問点について述べます。

まず「2025年の崖」で焦点を当てているのは、レガシーシステムです。レガシーシステムとは、企業内の下記のような既存システムです。

レガシーシステムとは

図表1:レガシーシステムとは

例えば、メインフレーム上のCOBOLアプリケーションは、古くからある典型的なレガシーシステムです。メインフレームの運用費用はオープン系やクラウドに比べ、かなりコスト高です。さらに、メインフレーム上のソフトやCOBOLが分かるIT人材も年々減少傾向にあるため、保守費用も段々と高くなっていきます。製造業では、今でもオフコン上のアプリケーションを各拠点で使っている企業が結構ありますが、これらもレガシーシステムです。これまでメインフレームやオフコンは、バージョンアップしても既存のアプリケーションがそのまま使えるよう上位互換が基本とされてきました。このためアプリケーションは10年・20年どころか30年以上継続して使うことができる一方、経年の改修で当然アプリケーションは肥大化・複雑化し、保守担当者が代替わりしていくと、一気にブラックボックス化していきます。このようなアプリケーションの肥大化・複雑化、ブラックボックス化は、オープン・システムやアドオン多用のERPシステムでも発生していて、広義にはこれらもレガシーシステムといえます。

「2025年の崖」では、下記のように、「レガシーシステムを放置することで、DXの実現を妨げ、デジタル競争の敗者になる(崖①)、業務基盤そのものの維持困難になる(崖②)、12兆円の損失が生じる可能性がある(崖③)」と危機を煽っています。

「2025年の崖」とその理由(解釈)

図表2:「2025年の崖」とその理由(解釈)

ここで崖ごとに、疑問となる点を見ていきます。まず崖①に関しては、事業横断的なデータ活用がうまくできないシステムは、レガシーシステムに限りません。また製造業でデータ活用が期待されている製品稼働、製造実績、市場需要などのデータは元々レガシーシステムで扱われていません。DXを妨げている課題はレポートでも述べているように、DX経営戦略の欠如、適切なスタッフ不足が主な要因で、レガシーシステムはその他の一因でしかありません。しかし、レガシーシステムに費やしている多大なIT予算や工数は、DX実現を妨げる大きな要因と見ることができます。

次に崖②につなげている、WindowsやSAPの保守の現バージョンのサポート終了の影響は大きいものの、バージョンアップ対応はこれまでも経験済みです。逆に、見落としがちなのは、これまで上位互換を基本としてきたメインフレームやオフコンのメーカーが次々発表しているサポート終了の方です。該当するメインフレームやオフコンを使用中の企業にとって、崖②はまさに大きな問題です

3番目の崖である、年間12兆円の損失は、 その根拠を見ると、システムダウンの原因が、セキュリティ、ソフト不具合、性能・容量不足、ハードの故障の経済損失が過去年間4兆円、そして2025年になると21年以上運用しているレガシーシステムが現在の3倍に増えることで、損失は12兆円になるとしています。この試算では、メインフレームやオフコンは、システム障害が起こり易く、セキュリティ面でも脆弱であるとの前提をおいていますが、そうでしょうか。例えば、よく原因となる運用ミスやネットワーク障害などはレガシーシステム以外でも等しく起こり得ます。メインフレームやオフコンは見方によってはオープン系システムに比べ、はるかに堅牢でセキュリティ・リスクはむしろ小さいと言えます。

このように「2025年の崖」には疑問があるものの、「202X年の崖」は確かに存在します。製造業では9割近い企業が何らかのレガシーシステムを抱えています。レガシーシステムのためにIT予算やIT要員の工数を費やしていることや、メインフレームやオフコンのサポート切れ対応は大きな問題です。レポートの一般化、単純化された「2025年の崖」に対し、自社には「202X年のどのような崖」が待ち構えているのかをまずはしっかりと見極め、確実に対処していくことを期待します。

※1:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

2019年10月

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