2019年05月01日
デジタル化とものづくり⑧
~テクノロジーで人を活かす~
HRテックと呼ばれる、デジタル化による人事業務の革新が、最近大きな盛り上がりを見せています。HRテックはHuman Resources Technologyの略で、人材の採用、配置、育成、評価、動機づけ等においてテクノロジーやデータを活用することで、これまで見られない新たなサービスが提供されています。HRテック先進国の米国や英国、カナダや中国に続いて、日本でもHRテックを利用する企業がここ数年で急速に増えています。
図表1:HR業務とシステム化
HR業務の中で人事情報や給与計算の業務については、どの企業もシステム化済みです。しかし、採用、配置、育成、評価、動機づけといったその他HR業務は、ほとんどの企業がまだ人手に頼っています。企業の経営資源の中核となるヒト・モノ・カネの内、モノとカネに関する開発・製造・販売・会計業務においては、ERPやPLM、そしてMESといったシステム整備がされてきました。それに比べ、「人財」とも呼ばれるヒトに対するシステム化投資が手薄なのはなぜでしょう。まず考えられるのが、HR業務の難しさです。人の行動様式は十人十色で、そのパフォーマンスやモチベーションも様々な要因で変わります。人が属する事業が変わると、採用、育成、評価も変わります。このように、HR業務は手続き化しづらく、一律にはいきません。さらに昨今はダイバシティも重視され、HR業務も多様な人材を前提としなければなりません。さらに、人の採用や評価に関わる領域をシステムに頼ることへの抵抗感もあったと考えられます。投資効果を測る新たな指標や目標値の設定も難しいところです。こういった理由から、これまでHR業務の大半は人に頼らざるを得なかったと考えられます。
しかし、日本企業のHR業務は、もはや属人的なままでは済まされなくなってきました。先ずは、製造業の深刻な問題となりつつある人材不足です。日本の総人口は2010年頃から減少しており、15歳から65歳の生産年齢人口の減少ペースは更に早く、絶対的に人が足りなくなっています。さらに、昨今の日本の製造業の競争力低下やリストラによる製造業のイメージ低下も、人材不足の一因と考えられます。また、グローバル化が当たり前となった製造業では、海外拠点のHR業務をこれまでのように現地任せにできなくなっています。このような日本の製造業の内外環境変化から、これまで人頼みであったHR業務の変革が優先課題となってきています。
このような背景の下、HRテックが急速に進化してきました。これまで属人的に埋もれていたHRデータがスマホやネット・サービスの普及により容易に集積でき、見える化できるようになってきました。データとAIそして人材管理の研究により、人に頼っていた分析・判断が、科学的かつ客観的に、そしてはるかに効率的に行えるようになってきたのです。ニーズとシーズがうまくマッチした結果、HRテックが着目され、企業が次々と採用し始めました。加えてHRテックはクラウドサービスが基本であり、企業にとってもHRテック利用の敷居が低いことも普及を後押ししています。ここ数年では、日本のHRテック利用は毎年5割増の勢いで拡がっています。
HR業務 | HRテック例 | ||
見える化 | 利用データ | 狙い・価値 | |
採用 |
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人材配置 異動 |
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人材開発 人材育成 |
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パフォーマンス管理 モチベーション管理 |
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図表2:最近のHRテック例
最近のHRテックの具体例を見ると、上記図表のようになります。採用業務では多数の応募書類に目を通し、面接を重ねる必要があります。HRテックは応募データと自社社員データから、入社後に活躍する可能性の高い応募者候補を選び出します。最近は、応募書類に加えて自分をアピールする動画送付を求める企業もでてきています。HRテックは、会話の内容、振る舞い、そして顔の表情や声の調子などから、入社後に活用する可能性を数字で判断します。採用時と入社後の活躍度のデータが蓄積されていくことで採用人材モデルの精度が高まり、企業の人材戦略に沿った採用に繋げていくことができます。また、スマホを使ってモチベーション管理をするHRテックの例があります。従業員が日々入力する出退勤や残業時間、頻度、休暇取得状況などの勤怠データから、過去離職につながった従業員の勤怠データを基に導き出した離職パターンを使って、AIがモチベーションを評価します。従業員の写真の笑顔の度合からも従業員の体調や意欲低下を判断します。部下の顔を見て、言葉を交わすことで当人の体調や意欲を判断できる場として以前は朝礼があったのですが、最近はフレックスタイムや在宅勤務などで、対面の機会が少なくなってきました。HRテックで意欲が低下した社員を早期にケアすることができれば、社員の生産性を高め、離職という企業にとって大きな損失回避にもつながります。
普及し始めたHRテックは定着させていかないと意味がありません。継続することでデータも蓄積され、人材モデルも整備できます。HRテックで日本企業が人を活かし、ものづくりを高めていくことを期待します。
2019年5月
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