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2019年04月01日

デジタル化とものづくり⑦
~デジタル化体制とIT部門の関わり方~

デジタル化を企画・推進していくために、どのような体制にしたらよいかは多くの企業の悩みどころです。今回はデジタル化を企画・推進する体制のあり方、そしてその体制へのIT部門の関わり方について考察します。
企業におけるデジタル化の企画・推進体制を見ると、下図のように大きく5つのタイプがあります。

デジタル化の企画・推進体制のタイプ

図1:デジタル化の企画・推進体制のタイプ

図1の左下に位置するタイプ1からタイプ3は、既存組織内に設置されたデジタル化体制です。デジタル化に着手済みの企業の9割以上は、このような既存組織内のデジタル化体制を採用しています。3つのタイプには、それぞれ長所・短所があります。

タイプ1:IT部門主体の組織

企業内でデジタル化を担うのに相応しい組織として、真っ先に挙げられるのがIT部門主体の組織です。元来、IT部門はテクノロジーの目利きができ、基幹業務のデータに関する知見があり、データの可視化や分析に長けています。さらに、デジタル化には不可欠となるPoCも得意です。このようにIT部門主体の組織はデジタル化に格好の体制に見えますが、弱点もあります。IT部門主体の組織は、デジタル化テーマの設定やPoC完了後の事業化は、あまり得意ではありません。経営からは、IT部門は事業や業務を理解し、デジタル化を積極的に推進するように求められています。社内の業務プロセスを横断的に見ているIT部門としては、業務プロセス領域のデジタル化に注力し、成果を出していきたいものです。

タイプ2:事業部門主体の組織

事業部門主体の組織であれば、事業・業務を当事者として理解しているため、価値の高いデジタル化テーマが選定でき、自部門主導でデジタル化を展開していくことができます。また、デジタル化による価値づくりの肝となる現場データ、産業データの収集や活用の勘所も分かっています。特に、製品・サービス領域のデジタル化を主導するのは、やはり事業部門が適しています。一方、事業部門主体の組織は、デジタル化に必要なテクノロジーやベンダーの調達については不慣れです。そのためデジタル化のPoC実施やシステム構築、運用は、ほとんど外部ベンダー任せとなってしまいます。IT投資のコスト感も弱く、デジタル化の範囲も自部門に限定すると、投資対効果が成り立ち難くなります。このタイプの体制においては、テクノロジーやベンダーの選択、そして他関連部門との連携などで、IT部門が積極的に関与・支援していくことが求められます。

タイプ3:IT部門と事業部門の共同チーム

上記タイプ1とタイプ2の体制のそれぞれの長所を兼ね備え、短所をカバーし合える体制となります。最近のデジタル化の企業調査でも、IT分門と事業部門の単体の組織に比べ、共同チームの方が、デジタル化の成果を出している企業の割合がはるかに大きいと報告されています。しかし、共同チームという体制のままでは、その役割・責任は限定されます。継続的な予算確保や人材育成をしていくためにも、早く正式の組織にしていく方がよいと思われます。

上記3つの既存組織内のデジタル化体制は、スピーディな体制作りという点ではプラスですが、既存組織ベースではどうしても現業に歩調を合わせることになってしまいます。人材や組織文化が既存のままでは、デジタル化の成果も一定の枠内に止まってしまいます。多くのIT部門は、SoR※1の領域、守りのITにどうしても軸足が残り、事業部門も既存市場や短期の収益確保が優先されます。このような行動原理や思考様式では、ラディカルなイノベーションにより大きな成果を挙げるデジタル化にはつながりません。

そこで、既存組織の外に新たにデジタル化の専門組織(タイプ4)を設立する企業が出てきています。既存事業の予算制約や目標・評価、そして組織文化の縛りを受けることのない、自由度の高いデジタル化専門組織です。必要に応じ、有能な社外人材を高報酬で獲得し、シリコンバレーのように多様な人材交流ができる場所にオフィスを構え、起業家精神に富んだマインドで仕事ができる環境を整備します。このようなデジタル専門組織で留意すべきは、既存組織から見ると何をしている組織かよく分からず、企業内で孤立してしまうことです。デジタル化専門組織は既存組織とのコミュニケーションを大事にし、デジタル化において連携し、事業移転していくことが求められます。

今後、企業がデジタル化の取組を拡大していくと、デジタル化の企画・推進体制が企業内に乱立していく可能性があります。そうなると、企業内のデジタル化のノウハウを集約し、重複投資を避け、企業内の有用なデータを統合し、企業全体のデジタル化を最適化していくことが必要となってきます。既に、社内の複数のデジタル化企画・推進体制を統合した体制(タイプ5)を敷く企業がでてきています。その中には、IT部門とデジタル化専門組織を統合する事例も見られます。デジタル化には基幹系システムのデータやデジタル化運営基盤やセキュリティ確保が益々重要となり、IT部門のノウハウが必要となるためです。
組織は戦略に従います。各企業が自社の戦略に適したデジタル化の体制を構築していくことを期待します。

※1:デジタル・トランスフォーメーション(DX)と「2025年の崖」~SoEとSoR 両利きの経営で崖を越えよう~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/president/20181201/

2019年4月

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