ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2017年10月01日

AIとものづくり⑧
AI人材をどう確保するか

前回のコラムでは「AI人材ってどんな人?」を考えましたが、今回は、AI人材をどう確保するかを見て行きましょう。昨今のAIの急速な実用化に、AI人材の供給が追い付いていません。例えば、自動車、電機、機械等の業界では、AIは競争戦略上不可欠な技術であり、AI人材の確保は重要課題となります。製造業だけでなくITや金融、運輸・流通などの業界でも同様に、AI人材を求めています。経済産業省の調査においても「国内のAI人材は質・量ともにすでに不足していて、今後はさらに深刻化していく」と予測しています。

AI人材は日本だけでなく世界的にも不足していて、「世界では数万人規模で足りない」とも言われています。博士号をもつAI人材であれば引く手あまたです。優れた実績を持つAI人材になると国際的な争奪競争となり、年収も数千万円から1億円のオファーがあるようです。

このように世界的にAI人材が絶対的に不足していく中で、日本のメーカーは下記のような方法を参考に、AI人材の確保にテコ入れしていく必要があります。

AI人材の確保方法
図.AI人材の確保方法


■社内人材育成
そもそも人材は育てることができます。メーカーの社内には、ITエンジニアや画像処理エンジニア、組み込みエンジニアなど、AIエンジニアに近いスキルを持った人材がいます。彼らを一刻も早く一人前のAI人材に育て上げるには、スキル・経験を効果的に身につけられる研修やOJTが必要です。しかし、自社でそのような研修を賄えるメーカーはまずありません。そこで、メーカーがAI人材を育てようとする時、研修依頼先として挙げられるのが、優秀なAI人材と研修講座をもつ大学や教育機関です。既に一部の大学や機関が社会人向けのAI講座を開設し始めました。また、企業が応分の費用や設備を大学に提供することで、産学協同のAI人材育成プログラムを実行している例もあります。このようなAI研修のコースや研修用データが整備されていくことで、今後AI人材の研修やOJTの場も拡充されていくと期待できます。

■採用
日本のメーカーは、自社のAI人材リソースプランに基づき、即戦力あるいはAI人材候補を継続的に採用していかねばなりません。AI専攻の学生は絶対数が元々少なく、数学が得意な理系学生も採用対象となるでしょう。ある企業では、事業計画に沿って多数のAI人材を採用するため、会社全体の採用枠とは別に、上限なしのAI枠を設けています。また、国内の学生採用だけでは限りがあるため、アメリカ、カナダ、中国、ベトナム、インドといった海外の大学から採用する必要もあります。しかし、海外でもAI人材の獲得競争は厳しく、優秀な学生を継続的に採用していくためには、それらの大学への奨学金や寄付・施設提供といった投資と長期的な関係作りが必要になってくるでしょう。

■産学連携
メーカーは産学連携により、大学のAI人材と共同で新たなAI活用に取り組むことができます。メーカーにとっては、AI活用領域に最適なAI人材を確保でき、大学にとっても、AI研究開発の肝となる実データを手に入れることができます。

■ヘッドハント
メーカーがAI研究開発で競合他社に後れをとっている中で、一気に形勢を立て直したい時や、自社で育てていては市場のスピードに追い付けない場合には、社外の優秀なAI人材をヘッドハントすることも必要となります。一流のAI研究者を獲得できれば、その人材に惹かれた優秀な人材を獲得することも期待できます。

■企業買収
優れたAI技術をもつベンチャー企業等の買収は、先進的なAI技術を手に入れるだけでなく、優秀なAI人材も素早く獲得することもできます。例えば、以前当コラムで紹介したGE社はデジタル事業の核となるPredixの深層学習機能を強化するために、2016年に2社のAI企業を買収しています。


ヘッドハントや企業買収など社外からのAI人材確保は、即効性があるものの、日本のメーカーにとっては副作用もあります。まず、日本のメーカーはいまだに自前主義が強く、外からの技術や人材との融和は容易ではありません。また、一般的なサラリーベースの処遇ではなく、プロジェクトベースでプロフェッショナルを雇えるように人事制度も見直さねばなりません。いったん人材を獲得できても、技術の変化、事業環境変化に即応できる意思決定や権限移譲ができなければ、彼らはすぐに次の職場に移ってしまうでしょう。

世界的にAI人材がひっ迫していることもあり、高めの報酬は優秀なAI人材の獲得の条件の一つになります。一方で、AI人材は最新のAI技術や価値の高いAI活用に関わることを好みます。また、様々なAI人材同士がコラボレーションできる環境やロケーションもAI人材を惹きつけます。これまでも新たな人材を育成・獲得してきた日本のメーカーの知恵と経験をAI人材の確保にも活かすことで、AI人材不足を克服し、自社に最適な体制を築けるものと期待します。


2017年10月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読