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2017年09月01日

AIとものづくり⑦
AI人材ってどんな人?

深層学習(デープラーニング)が注目されだした2012年から始まった第3次AIブームは、早くも5年目を迎えています。AIに対する関心や期待がますます高まり、製造業をはじめとするあらゆる産業でAI活用が本格化し、具体的な成果が出ています。こうした勢いから、今回のブームは一過性のものではなく、むしろ本物のAI時代に入ってきていると見る人が増えています。

このようにAI活用が急速に進む中、「わが社もAIを実用化すべき」と動き出す企業がどんどん増えています。ところが、社内を見渡しても、AIの分かる人、AIの実用化経験者はいないため、このような、いわゆる「AI人材」を新たに採用・育成していく必要があります。そこで今回は、「そもそもAI人材とはどんな人なのか」考えてみましょう。

まず、AI人材が持つべき知識・スキルを挙げていくと、大きく3つの分野に分かれそうです(図表1)。

AI人材に求められる知識・スキル
図表1.AI人材に求められる知識・スキル

左側の「AI技法分野」には、よく話題になる機械学習や深層学習をはじめ、自然言語処理や画像認識など、AIの基盤となる技術が含まれます。中央の「AI開発分野」には、AI技法を利用したAIアプリケーションを開発するための知識・スキルが含まれます。プログラミングの能力に加え、AIライブラリやツールの使い方、そして数学や統計に関する知識・スキルが必要となります。そして右側の「AI活用分野」には、AI技術動向を見据えた技術の目利きや、AIが適用できそうな課題を発見し、その解決仮説を立案できる知識・スキルが含まれます。その上で、AI活用の企画を立案し、経営者に分かりやすく説明し、関係部門と上手にコミュニケーションしていく能力、そしてAI実用化を推進・評価していく能力も重要です。

企業内で実際にAI実用化に携わるAI人材は、これら3つの分野の知識・スキルのどれに長けているかによって、3つの人材タイプに分類されます(図表2参照)。まずAI技法分野に強いのが「AI研究者」です。AIを活用した製品やサービスに必要なAI技法の開発や最適化を担います。「AI研究者」はAI開発分野の能力も併せ持つことが期待されます。2番目の人材タイプ「AIエンジニア」は、AI技法分野での高い能力は必要なく、基本的な部分が理解できれば問題はありません。既存のAIライブラリやツールを使いこなしてプログラミングする「AI開発分野」の能力に長けている必要があります。「AIエンジニア」はSEに似た面もありますが、理論的な思考が求められ、数学や統計の一定能力も必要なため、理系出身が向いていると思われます。3つ目の人材タイプ「AIプランナー」は、AI実用化の企画やコミュニケーションなど「AI活用分野」の知識・スキルが武器となります。

AI人材像とその保有スキル
図表2.AI人材タイプとその保有スキル

「組織は戦略に従う」、この経営学の考え方はAI実用化にも通じます。企業は必ずしも3つの人材タイプをすべて揃える必要はありません。例えば、既存のAI技法を使った新たなサービスアイデアで勝負する戦略ならば、「AI研究者」は特に必要ないでしょう。逆に独自のAI技法で差別化サービスを提供する戦略には、優れた「AI研究者」の確保が最重要となります。

日本の大手メーカーにおいて、AI人材の確保が急務となっています。特に自動車関連や産業機器、家電などのメーカーは、先行する海外メーカーに追い付き、社運をかけてAI関連事業を強化すべく、AI人材の拡充を急いでいます。製造業のみならず、サービス業や金融業界なども同様に、AI人材確保に積極的です。AI人材を狙っているのは、一部の大手企業だけではありません。経済産業省の調査結果によると、「2016年時点で32%の企業が、AIの技術やサービスを具体化できる人材が不足」と報告されています。今後、業種や企業規模に関わらずAI実用化が加速し、AI人材の不足は一層深刻になっていくのではと懸念されます。

新たにAI実用化を目指す日本メーカーは、これからもまだまだ増えてくると思われます。まず自社事業におけるAI活用戦略を明確にし、戦略にマッチしたAI人材を揃えることで、AI実用化による効果を早く享受していきたいものです。

次回は、AI人材の採用・育成について、話す予定です。


2017年9月

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