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2017年08月01日

AIとものづくり⑥
AIは雇用をどう変える?

最近は様々なAI活用事例がその成果とともに報告され、AIが持つ能力の高さが世の中に広く認知されるようになってきました。AIに対する期待が高まる反面、今後AIが世の中に与えるリスク、中でも雇用に及ぼす影響についても目が向けられるようになってきました。今年1月に開かれたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)でも、AIやロボットがもたらす生産性向上だけでなく、雇用への影響に関しても、多くの議論がなされたようです。今回は、AIが雇用にもたらす影響を、ものづくり中心に見てみます。

AIやロボット等の技術革新による雇用への影響予測については、最近、色々な調査・研究がされています。調査・研究によって、その方法や影響予測結果も異なるのですが、日本を対象とした調査の一つ*1)によると、現在の日本の労働人口の約49%が、10~20年後にはAIやロボット等で代替可能になると試算されています。この試算において、製造業における業務が、AIやロボット等によって技術的にどのくらい代替可能かという確率を見ると、下表2列目のようになります。傾向として、定型作業割合が多い業務、そして人とのコミュニケーションの必要度が低い業務が、代替可能確率が高いように見えます。ただし、実際の各業務の代替可能確率は、その業務の内訳によって変わってきそうです。また、この代替可能確率の推計には、代替コストなどは考慮されておらず、あくまで技術的な代替可能性を表しています。

表.AIやロボットによる業務の代替可能確率
出典:日経新聞電子版『働き方はどう変わる、到来「AIが同僚」時代』より編集加工
代替可能確率 製造業の業務例 (参考)
製造業以外の業務例
0%~ 研究者
営業職
広告宣伝
弁護士
看護師
20%~ 薬剤師
ソフトウェア作業
40%~ 営業販売事務
生産関連作業
調理師
販売職
60%~ 化学製品製造
庶務・人事
大工
農耕
80%~ 生産関連事務
倉庫作業
電気機械器具組立
税理士
司法書士

予測に留まらず、実際の雇用代替はすでに起こっています。例えば、世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックス社では、機械学習などの株取引自動化により、2000年には600人いたトレーダーが現在はわずか2人になっているとのことです。日本国内のある工場でも、生産ライン検査業務へのAI活用により、人手の3分の1が代替できることが検証されたようです。

このようなAIによる業務の代替予測に対する反応には、不安と期待の両方の見方があります。まず、AIやロボットが普及していけば次々と人間の仕事が奪われてしまうという、雇用への不安です。現在でも、アメリカでは製造業の雇用確保・拡大が課題の一つとなっています。最近、反グローバリズムが高まる国々が目立つ背景の一つには、雇用不安があります。製造業では、これまでもオートメーション化や海外移転が起こるたびに、雇用確保が課題となってきました。AIに代替された製造工程の担当者が、営業職や研究職に変わるのは簡単ではありません。今後デジタル革命が加速していくことで職を失う人が増えていき、10年後にはAIやロボット導入による失業者が数千万人に達するとの悲観的な予測もあります。

一方で、AIやロボットができる仕事を敢えて人が行う必要はなく、さらに、人の能力ではできなかった仕事や、人が苦手とする仕事をAIやロボットがやってくれることを、素直に期待する見方があります。特に日本は少子高齢化が大きな問題で、20年後の生産年齢人口(15~64歳)は、今より2割以上減ってしまう見通しです。このような労働力不足には、AIやロボット活用による生産性向上が本質的な解決策として期待されます。また、AIの支援によって、ものづくりの経験のない女性や外国人が新たな即戦力として活躍できることも期待できます。

AIやロボットの雇用への影響について、楽観的な理由がもう一つあります。AIやロボットが職場に増えていけば、人の能力を必要とする新しい仕事が生み出されるからです。例えば、AIの学習用データの整備や教育、ロボットの監視などの仕事はすぐにでも必要となります。AI活用により製造業のサービス化が加速し、全く新しい雇用が生まれる可能性もあります。ゴールドマン・サックス社の例においても、トレーダーが減った代わりにシステム技術者が大量に採用されました。過去の産業革命や技術革新を見ても、ある仕事は無くなる代わりに、それ以上の新しい仕事が産み出されています。

「AIの普及により、雇用はどう変わるのか」、これに明快に答えるのは現時点では難しそうです。しかし、AIの活用が、自社のものづくりにふさわしい「人の役割」を再考し、自社のものづくり、コトづくりを進化させる好機になるのは間違いありません。


*1)NRI社 が英国オックスフォード大学オズボーン准教授との共同研究で行った試算


2017年8月

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