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2017年02月01日

ビジネスモデルを変える⑭
なぜファブレス企業は高収益なのか

前回は「影のメーカー」であるEMS企業について述べました。スマイルカーブで見ると、EMS企業はカーブ下側の調達と製造に特化し、製造能力やスケールメリットを活かして製造受託サービスを提供します。このような製造受託サービス企業とは逆に、スマイルカーブ上側の企画や開発、販売に専念し、調達と製造はすべて社外に任せるのがファブレス企業です。「ファブレス」(Fab-less)とは、製造・製作(fabrication)が無い(less)という意味で、メーカーなのに工場は持っていません(図表1)。社外に100%製造を委託し、社内に製造機能を全く持たないファブレス企業に対して、最小限の製造機能を社内に持つ場合は「ファブライト」(Fab-light)企業と呼ばれることもあります。

スマイルカーブにおけるファブレス企業と製造受託企業
図表1.スマイルカーブにおけるファブレス企業と製造受託企業

世界的に有名なファブレス企業には、Appleや、ソフトバンクが最近高額で買収した半導体のARM、アパレルのH&Mなどが挙げられます。他にもスポーツ用品のNIKEや、家具のIKEAもファブレス企業です。ファブレス企業は元々電子機器・IT、半導体、アパレルなどの業種に多かったのですが、今や様々な業種で見られます。そして、これらの企業は、製造を丸々外部に任せているということ以外に、どこも高収益企業であるという共通点があります(図表2)。では、なぜこれらのファブレス企業は、同業他社に比べ高い利益率を確保できるのでしょうか?

業界 電子機器/IT 半導体 アパレル
業界特性例 大きな需要変動 シリコンサイクル
(集積度向上)
移り変わる流行
ファブレスの主な目的 生産機動力 巨額の設備投資回避 タイムリーな市場投入
ファブレス企業例と最近の営業利益率 Apple
3割
ARM
5割
H&M
1.5割
製造委託先 EMS ファウンドリー 社外縫製工場

図表2.ファブレス企業の考察

まず考えられるのは、これらの企業はファブレスを採用することで、市場変化への対応や投資の償却に要するコストを抑制できることです。アップルのiPhoneは毎年新しいモデルが出る度に、一日に数十万個の製造能力を用意し、世界中の需要変動に応じて生産拠点や生産体制を配備していかなければなりません。さらに、新モデル用の部品調達、新しい工程で不良品を出さないように現場要員の訓練にも多くの労力が必要となります。アップルはこれらの負担を製造能力と生産機動力に優れたEMS企業に任せることで、本来必要となるであろう膨大なコストを低減していると想定できます。

アパレル業界でも同様に、流行が移り変わるシーズンごとに新製品を市場投入していかなくてはなりません。新製品の売れ行きのピークに合わせて、高い固定費となる製造設備や製造要員を確保していくのは大変です。ファブレス企業であることで、設備や人の固定費を、実需に応じた変動費にすることができます。半導体業界でも同様に、業界特有のシリコンサイクルと言われる約4年ごとの景気循環があり、毎回大きな設備更新が必要となります。ファブレス企業は、ファウンドリーと呼ばれる半導体の製造受託企業にすべて委託することで設備投資の償却コスト負担を軽減することができます。

しかし、前掲したファブレス企業の利益率が高い理由は、単にスケールメリットのある製造受託会社に委ねることによるコスト抑制だけではありません。これらの企業はものづくりを外部に任せることで、自らは企画、開発、デザイン、マーケティングによるコトづくりに専念し、お客様にとって価値の高い製品を提供できています。つまり、これらのファブレス企業は、コトづくりで勝負することで、高い収益を上げていると考えられます。ものが溢れ、ものそのもので価値創出することが難しくなった昨今、コトづくりの苦手なファブレス企業では、高収益につなげることはできません。

日本にも、ゲーム機の任天堂やFAセンサーのキーエンス、缶飲料のダイドードリンコなどのファブレス企業があり、それぞれ高い収益をあげています。しかし、日本のファブレス企業数は欧米に比べまだまだ少ないようです。これまでは、日本メーカーはどちらかというと水平分業に背を向け、垂直統合に固執する傾向が強かったと思われます。日本の製造業においても、コトづくりに秀でたファブレス企業と、ものづくりが得意な製造受託企業の双方がWin-Winの関係を築くことで、大きな価値を生むビジネスモデルが次々生まれるのでは、と期待します。


2017年2月

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