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2016年07月01日

持続的成長のための管理会計①
管理会計による見える化の意義

最近、英国のEU離脱決定を受けて日本企業の業績悪化懸念がニュースなどで取上げられています。皆様の企業では、為替水準や関税が変更となった場合の損益インパクト予測、対応施策の必要性判断、そして施策を実行に移すまでにどれだけの期間を要するでしょうか。

多くの企業が海外に進出し、事業や組織を拡大するとともにリスクが増加しています。また、国内外ともに競争は激化し、ITの技術進歩などもあり環境変化のスピードが上がっています。こうした環境下、持続的成長を実現するための経営管理基盤の見直しがテーマになっており、その一つに管理会計を中心とした見える化があります。

今月から5回にわたり、管理会計を中心とした見える化による経営管理基盤の整備について、見直す際の考慮点を紹介したいと思います。今回は、管理会計による見える化を見直す意義についてお話しします。

管理会計による見える化

管理会計は企業戦略を実施するためのシステムで、組織管理支援と意思決定支援という2つの大きな側面があります。1つ目の組織管理支援とは、組織の力を最大限活かすために行う分化や統合の管理を支援することです。人は分業により効率が上がるので、企業は生産や販売などの部門を作り分業体制をとります。分業はそれぞれを見れば効率的でも、企業全体では非効率な場合があります。そのため企業では分化と統合の管理が必要となります。企業の行うPDCA(計画-実行-評価-改善)サイクルであれば、計画時の各部門での計画立案や全体最適のための部門間調整、実行後の進捗や結果の評価・改善策の検討などが、組織管理の代表例です。

2つ目の意思決定支援とは、企業内の様々な人や組織が行う意思決定時の判断材料を提供することです。例えば、新製品開発の開始を判断するための利益貢献額や、発売までにかかるコスト算定、顧客へ提出する見積額を決めるためのコスト算定などです。会計情報は企業活動を通貨価値で表しますので、経済合理性などを判断する時の材料として大変説得力があります。

見える化とは、問題点などの情報を顕在化・共有化して問題解決に役立てることです。人は、見て気づき、考え、何をすべきかを判断し、実行に移します。見えないために、問題に気づかない、判断に時間がかかる、見えた時には手遅れになっているということも少なくありません。見えない、遅れたでは、競争力を落としかねません。

グローバル化による事業活動範囲の拡大や競争激化などで、管理すべき範囲は広がり、一方で迅速で細やかな管理が求められています。また、社会環境の変化もあり人材は多様化・流動化しています。立場、価値観、知識や経験等によって、同じものを見ても気づく内容は異なります。従来の日本企業に見られた暗黙知や「あ・うんの呼吸」による経営管理が難しい場面が見られます。会計情報など数字という客観的情報に基づく気づきや判断材料の提供が重要となり、管理会計を中心とする見える化を見直す必要性が増加しています。

見える化が持続的成長を育む

ここからは、危機を乗り越え、持続的成長の基盤を作ったコマツの事例(※)をご紹介します。

コマツはITを活用して、販売した機械の稼働状況を把握し、サービス提供や建設機械の需要予測に活用するIoTモデルを作ったことでも有名です。現在は建設機械業における高収益企業ですが、2000年代初めには不採算事業や固定費増加で赤字に苦しみました。その際、「成長とコストの分離」をコンセプトに、厳格にコストを管理し利益が出せる体制作りに取組みました。その中で行った管理会計制度見直しの一部を紹介します。

それまでコマツは、製品別での全部原価計算(すべての原価を製品に割振る計算)により利益を管理していましたが、固定費の見え方などで問題が生じていました。工場管理費、販売費および一般管理費などの固定費を製品に配賦していたため、本来発生元で責任を負うべき固定費が、製品売上で回収されるべきものだという感覚に陥っていました。売上増加局面では固定費が予算超過していても、「回収されている」という感覚になり、結果として固定費が増えてしまいました。また、配賦基準変更にかかる社内交渉で不毛な時間を費やすという課題もあったとのことです。見直しでは固定費の製品への配賦を中止しました。見え方が変わったことで、固定費は発生部門の責任で削減すべきことが明確にされ、従業員が改善へと動機づけられたなどの効果が現れたそうです。以降、固定費支出を削減・抑制しつつ、成長のための研究開発投資は増額することで、高収益企業の基礎を作っています。

固定費の見え方が変わり社員の意識が変わった例
図 固定費の見え方が変わり社員の意識が変わった例

コマツの取組みは、管理会計による見える化の見直しで社員に気づきを与え、持続的成長のための基盤を作った1つのケースと言えそうです。見える化のみで高収益企業になれるということではありませんが、適切な理解がされていないなどの課題が生じていれば、見える化の見直しを考えることも一案です。

※事例は「企業会計2015 Vol.67 No.12 浅田拓史、上總康行(コマツの「ダントツ経営」とSVM管理)」を参考に記述しました。


2016年7月

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