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2010年07月01日

製造業における国際会計基準(IFRS)適用の考慮点(その2)

今回の解説は下記項目の3. 4. 5.を対象とします。

1. 収益計上認識基準
2. 工事契約の工事進行基準
3. 研究開発費
4. 有形固定資産の減価償却
5. リース


なお、前回の2.工事契約の工事進行基準のポイントの、2-2 IFRS実施のポイント、2-3 IFRSの実施による業務システム見直しのポイントの解説を追加しました。
前回掲載分はこちら →
 製造業における国際会計基準(IFRS)適用の考慮点

※IFRS(International Financial Reporting Standards)は国際財務報告基準のことですがメディアでは国際会計基準と呼ばれています。

3.研究開発費の管理ポイント

研究開発活動は企業の将来の製品化を目標とし、研究活動の研究費と製品化を目指した開発費とに分かれます。

1. 日本基準とIFRSの比較
日本基準 研究開発費はすべて費用処理されています。
IFRS 研究局面は費用処理され、開発局面で以下の1〜6の要件を満たした支出については資産に計上され、その他の費用は費用処理されます。
※IFRSの開発費の資産計上の6要件
 1. 開発が完成することが技術的に可能である。
 2. 開発を完成させて使用又は販売する意思がある。
 3. 開発の成果を使用又は販売する能力がある。
 4. 開発の成果が将来の経済的便益を創出する可能性が高い。
 5. 開発を完成させるために必要な資料が利用可能である。
 6. 開発段階の支出を信頼性をもって測定する能力がある。
2. IFRSの実施のポイント
研究開発活動への支出の中で開発活動に関する費用で一定条件を満たしたものは資産計上の必要があります。資産計上された開発費は製品の販売期間中に減価償却して費用化するか、当資産を評価し、減損の恐れがある場合には減損処理が必要です。
・資産化される開発費には研究活動及び開発活動の定義を定め、開発活動に支出した費用を資産化するためのルールを社内規定で定める必要があります。

・資産化された開発費は期末ごとに再評価し、評価の低いものは減損処理をしなければなりません。

3. IFRSの実施による業務システムの見直しポイント
業務システム的にはプロジェクトNo.別(工事番号別)に原価集計できるシステムを構築し、プロジェクトごとに開発費、研究費を区分し、資産化できるようなプロジェクトシステムが必要と考えられます。

4.固定資産の管理ポイント

有形固定資産の会計処理で、減価償却費の計算は日本の税法を中心にして、計算されてきましたが、IFRSが導入されると、減価償却単位、耐用年数、減価償却方法及び残存価額の計算根拠を企業が独自に妥当性及び合理性のあるものを設定するとともにその根拠の説明責任を果たす必要があります。

1. 日本基準とIFRSの比較
日本基準 減価償却単位 資産管理がしやすいように企業が合理的に実施していた
減価償却方法 一般的には税法規則に従って実施していた
耐用年数 一般的には税法規則に従って実施していた
残存価額 一般的には税法規則に従って実施していた
IFRS 減価償却単位 有形固定資産を重要な構成部分に分けて、個別に減価償却費を計算します
減価償却方法 資産の劣化や使用による減耗度合いの形態に応じて、定額法、定率法、生産高比例法の計算方式で算定します
耐用年数 資産の経過年数により劣化や使用による減耗を勘案し、耐用年数を設定します
残存価額 資産価額の時価及び使用価値等と比較検討し、決定します
2. IFRSは有形固定資産の取得後の評価方法として原価モデルと再評価モデルのいずれかを選択します。


原価モデルは現行の日本基準と同じ評価方法で、再評価モデルは原価モデルにおける取得原価相当額を時価と比較し、その価額の妥当性を定期的に評価をします。再評価モデルは有形固定資産の時価と原価モデルに基づく帳簿価額を計算することが要求されますので、業務負担が大きくなります。

3. IFRSの実施ポイント
1. 減価償却する際に、各資産の重要な構成部分に分けて計算します。
2. 企業が減価償却方法を選択する際には、その資産の便益が消費されるパターンを適切に反映していることを合理的に証明できることが必要です。
3. 耐用年数については使用頻度、技術の劣化及び陳腐化等の要因を配慮して決定します。
4. 残存価額についても耐用年数終了時の売却可能価額をもとに計算します。
5. 減価償却方法、耐用年数及び残存価額は毎年、期末には見直しをしなければなりません。
6.

有形固定資産の取得後の評価方法として原価モデルと再評価モデルのいずれか選択をしなければなりません。

4. IFRSの実施による業務システムの見直しポイント

IFRSの導入により重大な影響を受けるのは固定資産管理システムです。

1. IFRS適用により必要な機能
減価償却方法を選択し、減価償却費の計算
定額法、定率法、生産高比例法等、会社の経済実態に応じて計算します。
2. 毎期必要となる耐用年数と残存価額の見直し
企業の状況に応じて判断し決定します。
3. 再評価モデル採用時の対応
原価モデルにおける取得原価相当額を時価と比較し、その価額の妥当性を定期的に評価します。
4. リース会計基準の改定により資産対象物件が増加
リース資産も固定資産システム上で管理する必要があります。
5. 資産除去債務の固定資産と連動した管理
資産除去債務は固定資産システムと連動して、固定資産の解体、除去の費用及び現状回復 費用の見積計算をします。
この見積りした債務は固定資産の取得に計上されるものと、費用となるものとに区分します。
6. 廃止事業に係る固定資産の管理
事業部の売却、処分等を決定したら、「廃止事業」として固定資産管理をする必要があります。
7. セグメント会計のための事業セグメントに係る固定資産の管理
事業セグメント単位の情報の把握が必要です。
8. 遡及時の過年度の減価償却の再計算
遡及とは過去に作成した財務諸表を作り直すことで、IFRSを適用する際、前年、前々年の財務諸表を全部作り直す作業です。固定資産情報も組み換える作業が必要です。
9. 減損会計での戻し処理
IFRSを適用する際、一度減損処理した資産について毎期減損テストし、減損当時の価額評価がその後、変動していないか確認した結果、回収可能価額に回復していたら帳簿価格を引上げ「減損の戻入れ」を実施します。
10. IFRSでの固定資産管理は「時価」を基本とした固定資産管理ができるようなシステムを構築する必要があります。

5.リース(借手側)のポイント

日本基準の改正により現行はIFRSとほとんど差異はなくなりましたが、日本特有の簡便な取扱いの内容は拡大解釈等により、原則から逸脱することが生じますので注意が必要です。

1. 日本基準とIFRSの比較
日本基準 ファイナンス・リースとは解約不能且つ、フルペイメントの要件を満たすリース取引をいいます
ファイナンス・リースを所有権移転と移転外に分類します
ファイナンス・リースの判定は数値基準により判定します
IFRS ファイナンス・リースとは資産の所有に伴うリスクと経済価値が実質的にすべて借手に移転するリース取引をいいます
ファイナンス・リースについて所有権移転の有無を問いません
ファイナンス・リースの判定に関して契約形式ではなく取引の実態により判定します
2. IFRSの実施のポイント
IFRSのリース会計処理(借手側)
1. 実質的にリスクと便益が移転する場合、リース資産に計上します。
(数値基準を満たさなかったとしても資産計上するケースが多くなる)
リース判定プロセスを見直します。
リース資産及び負債が増加してROA(総資産利益率)が悪化します。
2. 取引先が有する自社専用設備について、一定の要件を満たせばリース資産として計上します。
リース資産管理台帳の整理、契約書の再チェックが必要です。

自社でリース契約はしてないが、外注先の負担でリース契約の形態をとらせている金型、システム等の取引は、自社の資産として計上する必要がありますので、このような実態の有無を調査しその実態を反映させる必要があります。

3. IFRSの実施による業務システムの見直しポイント
1. 部品購買、有償支給、外部委託に関する戦略を見直します。
2. 関連する契約を見直します。
3. リース資産管理は固定資産管理システムでの総合的な管理が望ましいと思います。

次回は「IFRS適用による製造業の管理会計と原価計算への取組み」について解説します。

2010年7月

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