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2010年06月01日

製造業における国際会計基準(IFRS)適用の考慮点

今後、IFRSが適用されると、日本の上場企業の経営管理や会計業務に大きな影響があるものと予想されます。現場の業務、情報システムの変更等が余儀なくされると考えられます。
その影響度は企業規模、業種、業態により千差万別ですが、上場している企業、その企業の関連会社を含め、業務見直しが必至と思います。
IFRSは基本的に原則主義、時価主義を中心に展開されていきます。
そこで、公平な時価評価の運営がどこまでできるか、相当ワークロードがかかると予想されます。
そのため、いろいろ課題を抱えた企業がオーバーリアクションにより多大なロスを出さないように、金融庁も「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」といったコメントを平成22年4月に発表しました。
このコメントを参考に、事前に調査を行い、合理的な方法で対処されることが肝要と思います。

そこで本コラムでは製造業の業務プロセスに大きなインパクトを与える項目を選択し、解説いたします。今回は下記項目の1. 2.を対象とします。

1. 収益計上認識基準
2. 工事契約の工事進行基準
3. 研究開発費
4. 有形固定資産の減価償却
5. リース

※IFRS(International Financial Reporting Standards)は国際財務報告基準のことですがメディアでは国際会計基準と呼ばれています。

1.収益計上認識基準のポイント

1. 日本基準とIFRSの比較

IFRSの収益計上認識基準として、今までの日本基準と広範な違いがあります。
IFRSが導入になると、収益計上基準のタイミング、サービスの提供要件、複数要素取引を構成要素ごとに会計処理等の変更があるため、業務システムの見直し等の影響が生じますので、準備が必要となります。

日本基準 収益の認識は実現主義で商品やサービスを取引先に提供し、取引先から商品やサービスの対価として受領した時点で収益に計上します。
IFRS 物品販売の収益は下記の5つの条件をすべて満たした時、計上します。
・物品の所有による重要なリスクと経済価値が買手に移転していること
・販売された物品に対して継続的関与や支配の保留がないこと
・収益の額を信頼性をもって測定できること
・経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
・発生原価を信頼性をもって測定できること
2. IFRSの実施のポイント
a. 収益計上基準のタイミングの変更
物品の出荷基準が認められないので、以下の基準が中心となります。
・着荷基準(納品基準) ・検収基準 等
日本基準では取引形態(1)?(6)までのタイミングで収益に計上しますが、IFRSでは(2)?(6)が中心になりますので、業務システムの見直しの必要があります。
b. サービスの提供はサービス提供の進捗状況に応じて収益に計上します。
c. 複数要素取引を構成要素ごとに会計処理します。(付帯工事とかアフターサービス込み等の取引)
手作業で構成ごとに区分するか、システム的に区分するかにより業務処理が変わります。
d. 総額主義と純額主義の売上表示
商社のように伝票操作のみで取引されるものは、仕入と売上の差額のみを売上に計上します。
例)仲介的な取引で、20億円で仕入、30億円で売上た時には、差額10億のみを販売手数料として収益に計上します。
3. IFRSの実施による業務システムの見直しポイント
a. 販売管理システムの見直し
・取引先との契約内容を再確認する必要があります。
・物品受領確認や物品検収済データを収集する仕組みが適切であるかを確認します。
・複合構成物品の販売時の区分処理が正しく実施できるかを確認します。
・代理店的な取引の売上の計上時、上記純額主義に該当するかどうか判断するプロセスが必要です。
b. 購買管理システムの見直し
・仕入先との契約内容の再確認が必要です。
・仕入先物品受領済、物品検収済データを仕入先に通知することが出来るかを確認します。
・複合構成物品の仕入時の区分処理が正しく実施されるかを確認します。

2.工事契約の工事進行基準のポイント

1. 日本基準とIFRSの比較

工事進行基準の観点では、IFRSと日本基準はほぼ一致していますが、IFRSでは工事進行管理をより厳しく要求しています。そのため、信頼ある進捗度を測定できるか否かによって会計処理が変わります。

日本基準 IFRSとほぼ同じですが、工事進行管理を厳しく要求しているため、適用できる件数が減少する可能性があります。
◎工事進行基準の適用される条件(IAS11より)
※IASは以前の国際会計基準のことで、今はIFRSに引き継がれています。
IFRS 1.工事進行基準
工事契約において、お客様に資産が移転する場合のみ売上に計上できます。
・工事中、所有権が移転しない工事契約の時は工事が完成した時点で売上に計上します。
・工事進行基準は今後のIFRSの会計基準「収益の認識」の改訂で、あまり認められなくなりそうなので、工事完成基準原則化に後戻りすれば、システム変更や業務の見直しが必要になります。
2.サービスの提供
・期末における取引の進捗度を信頼を持って確認できる時、収益に計上します。
・商品の販売のために発生した費用及び取引完了に要する費用を信頼性を持って確認する。

IFRSが導入されると下記のようになります。見積原価と実際原価が合理的に計算できる仕組みがあり、適正な管理ができる仕組みを備えていることが必要です(これを原価比例法と呼ぶ)。
進捗度の計算は下記の通りです。


この様な管理が機能していない、又故意に調整できるような仕組みの場合、いわゆる、工事完成基準で会計処理されることになります。

2. IFRSの実施のポイント

工事進行基準とは、完成したものを引渡す契約がある前提で実施します。
工事進行基準の客観性を維持するために、次の3つの項目について信頼性を持って見積もることができる場合のみ工事進行基準を適用できます。
 1.工事収益総額 (契約金額)
 2.工事原価総額 (工事全体にかかる費用)
 3.決算日時点の工事進捗度(決算日における工事の進み具合)
 なお、決算日の工事進捗度には、これまでの慣行や適用の容易性を斟酌すると、 ほとんどの場合、上記2-1)で説明した原価比例法が採用されています。

◎工事進行基準の適用される条件(IAS11より)

工事契約の種類に応じて、以下のすべての条件が満たされる時、工事契約の結果を信頼性をもって見積ることが出来たと判断され、工事進行基準の適用が認められます。

  • 固定価格契約
    施工者が固定された契約価格又は単位出来高当りの固定単価で請負う工事契約で、価格修正条項が付されている場合もある。
    1.工事契約が信頼をもって測定できる。
    2.契約に関連した経済的便益がその企業に流入する可能性が高いこと。
    3.契約の完了に要する工事契約原価と期末日現在の契約の進捗度の両方が信頼性をもって測定できる。
    4.実際に発生した工事契約原価が従前の見積と比較できるように、契約に帰属させることができる原価が明確に識別でき、かつ信頼性をもって測定できる。
  • 原価加算契約
    許容される原価又は一定の原価に、その原価に対する一定率又は固定報酬額を加えたものが施工者に支払われる契約
    1.契約に関連した経済的便益がその企業に流入する可能性が高い
    2.個別に支払われるか否かにかかわらず、契約に帰属する原価が明確に識別でき、かつ信頼性をもって測定できる。

3. IFRSの実施による用務システム見直しポイント
厳密なプロジェクト別、個別原価計算制度を確立し、この原価計算制度と調和した見積原価(工事予算)算定体制を構築するとともに見積原価と実際原価の比較をタイムリーに出来る仕組みの構築が必要となります。

※上記2-2、2-3の解説を追加しました。

2010年6月

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