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2009年08月01日

原価管理よもやま話⑤
管理会計における原価管理の重要性

金融危機の発生により、世界経済が減速している影響を受け、我が国の景気も急速に悪化し、さらには国際会計基準(IFRS)の採用等にも対処しなければならない状況です。製造業においても経営者の方々は企業の会計システムを再度、見直す必要があるのではないでしょうか。

企業の会計は財務会計と管理会計とで構成しています。
財務会計とは投資家、債権者等、外部の利害関係者に会計情報を提供することが役割です。
財務会計の主な役割は一定期間における企業の経営成績と、一定時点における財政状態に関する要約した情報を定期的に外部の利害関係者に提供することです。
管理会計とは経営者のために経営管理を目的とする会計で、経営者と管理者の仕事を支援し、会社の全体最適を実現するための情報の提供及び部門毎の部分最適を実現するための情報提供をしています。

管理会計のポイントには全体最適と部分最適の2つがあります。
全体最適のポイントには予算管理、利益管理、事業部制業績管理等で、部分最適のポイントは企画ための管理会計、原価管理、販売活動のための管理会計等から成立っています。
そのなかでも、製造業において重大な管理機能を果たしているのが原価管理です。

原価管理は以下のような役割があります。

  • 経営活動の評価や計画、利益の拡大に役立てるために、予測した原価と実際に発生した原価との差異を分析し、原因の追究と対策をたてます。
  • 製品の価格決定、製品別利益管理の実施。
  • 予算編成の評価と原価の統制に必要な情報の提供。
  • 設備投資等の経営上の意思決定のための原価情報の提供。
  • 財務会計への売上原価と棚卸資産(製品、仕掛品)情報の提供。

等々の重要な情報を提供しています。

原価管理は製造企業において、このように重要なコントロールを果たしています。

そこで、下記に原価管理の活用のための展開と原価管理を支える原価計算システムについて述べます。

1. 原価管理の展開
原価維持管理、原価低減管理、改善推進管理は次のように展開され、そしてその根底に原価計算があります。
1. 原価維持管理
原価維持管理とは現状の原価基準を維持することです。現状の原価基準とは、現在の予定原価、標準原価、製造予算のことです。生産活動では、不良、手直し、作り直し、設備故障等が発生します。
これらはすべて原価上昇につながり、現状の原価基準を超える原因となります。
これらの実際ロスを除去して原価を適正に維持する必要があります。
原価維持管理は次のように行ないます。
項 目
内 容
予定、標準の設定 原価を維持するには、まず維持の基準を作成し、製品別の予定原価や標準原価を設定することで、工場や部門毎の製造予算も基準ができます。
実績の把握 生産活動の結果の原価を計算します。これは原価費目ごとの金額だけではなく、時間、数量、価格等も明確にし、同時に不良、仕損、故障等の実際ロスも把握します。
予定、標準と実績との対比及び原因分析 実績原価を予定、標準と比較し、予定、標準との差額、内容を明確にして、その原因を分析すると共に報告します。
実際ロスの除去 実際ロスを除去するために、改善検討を行ない、改善案を作成し、改善を実施し、不良低減、歩留り向上、手待ちの排除、設備故障の排除等の実際ロス除去の改善を実施します。
実際ロスの除去は、それが発生した時、即時対応するものと、発生のパターン、原因を明確にし、問題の大きいものから順に対応します。
2. 原価低減管理

原価低減管理とは、現状の原価基準を機会ロスの除去によって原価引下げ、新しい原価基準を作り出していくことです。
機会ロスとは原価低減が図れる案があったが採用しなかったために、儲けそこなった利益のことをいいます。
原価低減管理は次のように行ないます。

項 目
内 容
機会ロスの除去の検討 機会ロスは、実際ロスとちがってロスが顕在化していません。そこで、どのようにすれば現状の基準を引下げられるかの検討が必要です。
作業時間やサイクルタイムの短縮方法、仕掛り在庫の削減方法、費用の削減の方法等の検討を行ない、改善案を作成します。
機会ロスの除去 対策を検討し、計画を作成して機会ロス除去対策を実施します。
原価基準の改訂 除去した機会ロスから、新しい原価基準を設定し、新しい原価基準に対し、更に、この原価基準の引下げを実施し、繰り返し原価改善活動を推進します。
3. 改善推進管理

原価維持管理、原価低減管理での原価改善のスピードは収益力向上に大きく貢献します。
この管理は次のように推進し、効果的に行います。

項 目
内 容
改善の組織化 原価改善・改革を1つの業務とする製造技術部門の他に、改善のプロジェクト、グループを組織化します。
改善推進の計画化 原価改善の推進計画は全員参画で取り組み作成します。
改善活動の実施のチェック 改善活動の推進状況を定期的にチェックし、推進上に問題があれば、これを明確にします。
改善推進阻害要因の除去 改善推進上の問題に対して適切な対策をたてます。

以上の原価管理を的確に実施するためには、費目別原価計算は勿論、製品別原価計算、部門別原価計算等、生産の特性に応じた原価計算を行なう必要があります。
そして、数量、時間、原単位等の生産尺度と密接に結びつける必要があります。
以上、原価管理は原価低減を計画、実施、統制していく一連の活動であります。

2. 原価管理の理論と手法

原価管理の理論と手法として一般的に紹介されているものには、次のようなものがあります。

コストダウンのための理論、手法

VE(ヴァリュー・エンジニアリング)、IE(インダストリアル・エンジニアリング)、事務分析、SA(システムズ・アナリシス)、SD(システムズ・デザイン)等です。

原価管理のための理論、手法

標準原価計算、変動予算、直接原価計算、投資効率計算、特殊原価調査、OR(オペレーションズ・リサーチ)以上のような理論、手法が原価管理の一環として活用されています。

3. 原価管理と関連するシステムについて

原価管理に重要な原価情報のデータは膨大で複雑なので、そのデータ発生元を十分理解してミスの無いように又、ミスがあってもリカバリーがスピーディに実施できるように工夫してください。
原価管理のシステムは非常に煩雑でシステム化が難しいので、システムがどのような結びつきになっているか、原価管理と関連するシステムについての関連図を下記に示します。

生産管理システムは数量情報を中心とした管理

オーダー情報、在庫情報、工程実績情報、部品表情報、品質管理情報等を収集

購買管理システム

材料費購入情報、外注費情報等を収集

予算管理システム

売上情報、売上原価情報、人件費予算情報、部門予算情報等の数量・金額情報等を収集

会計システムは金額情報を中心とした管理

労務費、減価償却費、製造経費等の部門別情報等を収集
* 給与管理システムの情報は会計システムにインターフェイスをしてから原価計算へ流すのが望ましいと思います。

原価管理システムと関連システム
図:原価管理システムと関連システム

4. 原価管理の基盤である原価計算システムの取り扱うデータについての留意点

原価計算のデータベースになっているインプットエラーについて考えてみましょう。
原価計算のインプットには大きく分けて2種類あります。

1. 各種システムよりインターフェースして、トランザクションデータをインプットする。
  • 生産管理・購買管理・統合会計システム等のインターフェースよりインプットされるがデータの締め切り、日時を厳しく遵守し、オペレーションする必要があります。
  • 各システムのインプット部門は責任を明確にし、タイムリーに訂正を行います。
    特に、生産管理システムはデータが複雑なため、エラーの発生頻度が高いように思います。
  • このエラーの訂正が生産管理に直接関係あるものは訂正されるが、間接的な場合には適正な処理がされない場合があり、その結果として原価計算システムにデータが流れない場合もあります。
  • 組織変更の時、部門コード等がトランザクションに正しく反映しないケースがあり、その場合は製品別原価計算が大きく狂い、原価情報の信頼性をなくします。
2. 端末等からのインプット

上記の1.でフォローできなかった追加インプットを実施すると共に、各種システムのエラーで、インターフェース出来なかったデータ等の訂正インプットを行います。
このような内容は軽視されがちですが大変重要なことなので、十分注意してください。

以上、原価管理の展開と原価管理を支える原価計算システムについて述べました。

最後に原価管理の実施のポイントとしてまとめますと下記になります。

  • 原価が実質的に形成されていく流れを掴むことが重要です。
  • 原価維持、原価低減を並行して行う。
  • 部分的成果に終わらず、全体成果に結びつけるような工夫が必要です。
  • 販売量の増減により、生産量も増減します。その結果、原価に大きな影響を与えますが、原価管理部門は原価維持のために弾力的な対応策が必要です。

原価管理の活用により、原価が引下げられますが、それは単に利益の実現だけでなく、次への収益拡大の飛躍を実現するための大きなエネルギーとなります。

2009年8月

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