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2009年05月01日

原価管理よもやま話②
製造業における『予算管理システム構築』のポイント(その2)

前回の第1回目は、企業における管理サイクル(P→D→C→A)および予算管理(予算編成)システムの課題〜解決策、更には予算編成システムの前提条件を述べてきました。その中で、予算編成スケジュールの短縮についても若干の説明をいたしました。
今回の第2回目は、本書の主旨であるシステム面の変革ポイントについて説明いたします。

1. 予算編成システムの変革ポイント
1.

予算編成システムの現状認識
新システムの変革ポイントを説明する前に、まずは、現状のシステム構築がどのようなレベルにあるかを理解しておきましょう。
図-1は、よくある一般的な企業での予算編成(標準原価算出)システムです。
核となる標準原価計算システムが、どの程度のレベル(コスト算出のメッシュ、標準原価件数、配賦方法など)かを把握すれば、その企業の予算管理/原価管理システムのレベルやプロセスが把握できるといっても過言ではありません。
図-1でも分かるように、既存システム(販売管理、生産管理など)や会計シスシステムからの情報は、手作業でのインターフェースであり、更に、標準原価算出システムも一部は、システム化されている企業もありますが、いまだにExcelで実施している企業も散見されます。
そのような場合、手作業が多くあるため、各種予算諸元を変更する損益状況シミュレーションにも限界があります。

図-1 現状の予算編成(標準原価算出)システム

図-1 現状の予算編成(標準原価算出)システム

2. 新予算編成システムの構築(案)
1. 新予算編成システム構築のポイント

図-2をご覧下さい。全体的なシステム構成が変わっているのではなく、これまで手作業であった部分がシステム化され、加えて標準原価算出システムが、これまでの手組からパッケージ化されて来ています。
また、原材料単価や、労務費や、為替レートなど外部環境・内部環境を変更しての、シミュレーションが可能な仕組みに変革しています。
特に、原単位に関しては季節変動代を取り込む事で、月次における原価差額分析の精度向上および分析作業の軽減に寄与する事ができています。

図-2 改善後の予算編成(標準原価算出)システム

図-2 改善後の予算編成(標準原価算出)システム

2. シミュレーション機能のポイント

図-3はシミュレーションの仕組みの例を図示しています。
20数年前に、脚光を浴びたマトリックス会計を仕組みとして取り込んだ考え方であり、現在においてもその考え方は十分活用でき、シミュレーションの手助けになることでしょう。
今回の例は、為替レートの変化がどう企業の収益に影響を及ぼすかを、図-3として図示しました。
・原材料を海外から輸入している場合、当然、為替レートにより材料費が大きく変動する。
・製品の輸出においても売上単価が、為替レートの影響を受けるため、営業損益へのインパクトが把握できる。

この考え方を用いれば、マトリックス上にある全てのデータを変更しての、シミュレーションが、いとも簡単に行なえる事になります。
全てのデータとは、上辺、左辺、センターに配置されたデータを言います。

図-3 マトリックスによるシミュレーションの考え方

図-3 マトリックスによるシミュレーションの考え方

3. 販売計画策定のポイント

図-4には予算編成時に収益予想の基本となる販売計画策定のポイントを記述しています。
白紙状態の1から策定するのでなく、売上実績データを活用し前年同月として抽出する事で、外部環境や内部環境の情報を含む、予算販売計画のベースデータになりえます。

この考え方は、リピート顧客を多く抱える企業にとっては有効な手段であり、更に、季節変動代までが取り込まれた販売計画となります。
例えば、季節変動要素は暖冬や冷夏によりその季節の衣服が売れなくなるケースや製菓業界などが考えられます。

図-4 予算販売計画策定のポイント

図-4 予算販売計画策定のポイント

4. 予算原価諸元情報策定のポイント

図-5は、標準原価を算出する基本情報に関わる、原価諸元マスターの策定を記述しています。
原価諸元も販売計画と同じく、白紙の状態から策定するのでなく、生産管理実績システムや品質工程設計マスターより作成する事で、より操業実態に近い内容に作り出す事が可能です。

但し、標準原価の算出で使用する品質工程設計は生産管理システムの品質工程設計より、早く使用する必要性があり、仮の品質工程設計マスターを 構築できるかが鍵となります。

図-5 予算原価諸元策定のポイント

図-5 予算原価諸元策定のポイント

図-6は、標準原価算出用歩留を生産管理の実績システムより、異常値を排除したり、実績のない標準歩留を作成する考え方を記述したものです。

図-6 実績データ有効活用のポイント1

図-6 実績データ有効活用のポイント1

同じ考え方は、標準原価算出用の生産性策定においても適用できます。
生産管理システムの実績データ収集サブシステムの構築を、どこまで実施するかにより標準原価算出システムの精度が左右される事になります。

5. 予算管理に関わる統制構築のポイント

予算立案〜稟議申請〜予算執行に至る一連の業務は、ステータス管理を行い任意の切り口で各種状況が把握できるようにしなければなりません。
研究開発や設備投資など、特別なプロジェクトとして管理を必要とする案件については、稟議申請番号を付与し予実管理が行なえるワークフローを構築します。コストダウンを意識したプロジェクト案件は、投資対効果がキッチリと把握できるシステムに構築しておく必要があります。
この場合も、生産性の実績把握と同様、生産管理システムの構築範囲を十分に考慮した上で、システム構築に着手すべきです。

6.

階層別・目的別データ・ベース構築のポイント
現在の予算編成においては、システム化がされていても、定型帳票や定型画面からの画一的な情報提供でしかなく、新しい情報を入手しようとすると、その都度システム部門に依頼をしなければならない仕組みになっています。
これらからの脱却として、階層別や目的別に各種のデータ・ベースを構築・開放し、EUCの実現を図るべきです。
図-7は、そのイメージ図です。

図-7 階層別・目的別データ・ベースの構築

図-7 階層別・目的別データ・ベースの構築

上記の、各システム施策を実施することで、予算編成スケジュールの短縮に寄与するシステム関連の改善が行なわれ、業務改革と合い間って効率的な予算編成業務が推進できたことになります。
この結果は、第1回目の図-2と図-3に変革前と変革後として図示しています。

さて、次回(第3回目)の原価管理よもやま話は、月次処理における原価管理システムの構築ポイントと、その活用方法について記述させていただきますので、ご期待下さい。

2009年5月

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