ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2008年12月01日

設計部門の役割の変化

このものづくりコラムも、「製造拠点の海外進出による製造形態の変化」、「トレーサビリティの強化」、「海外拠点の見える化」と回を重ねてきました。今回は、いよいよ製造業の根幹に当たるものづくりの中核をなす設計部門について、お話してみたいと思います。まず始めに、あらためて「設計とは何だろうか?」から考えていきます。

1. 設計とは何だろうか?

広辞苑によれば設計とは「…或る製作・工事などに当たり、その目的に則して、工費、敷地、材料および構造上の諸点などの計画を立て図面その他の方式で明示すること。…」 とあります。
このように製作・工事するもの全般を含み、その概念は非常に幅広いのですが、製造業に限れば、商品企画・各種仕様等に基づき設計部門が具体的な仕様をあらわす「製品設計」という計画を行い、さらに製造技術部門がその仕様を作りこむ手順・方法をあらわす「生産設計」という計画を行って製造が開始されるというのが一般的でしょう。ここで大事なのは、広辞苑でも述べているように「目的」です。では、「製品設計」や「生産設計」の目的とはどのようなものでしょうか?
「製品設計」では、お客様がその効用を積極的に評価し、対価を支払っていただける製品を開発することが目的となります。そこでは、市場動向・顧客のニーズ、企業の持つ資源、コスト等が制約条件となります。
「生産設計」では、開発された製品を安定的に、速く、低コストで製造することが目的となります。そこでは、主として企業の持つ資源、コスト等が制約条件となります。
このように「製品設計」では、市場や顧客のみならず企業の持つ資源を考慮する必要があります。しかも、企業の持つ資源としては、設計部門のみならず製造部門についても考慮するすなわち「製造設計」へも考慮する必要があるということです。
このコラムでは、「製品設計」を「市場・顧客が要求する高品質・低価格な製品を迅速かつ安定的に市場に提供する事を目的とした一連の製品開発作業」と定義します。そのうえで、設計部門を新たに定義された「製品設計」担当する部門として位置づけ、その役割の変化について考えていきます。

2. 設計部門を取り巻く環境の変化
設計部門を取り巻く環境はここ数年大きく変わってきています。その環境の変化についてみていきます。
2.1 顧客ニーズの多様化

対象となる製品が少ない時代には、お客様に選択の余地はなく、メーカーの理論が通用しますが、製品が豊富に存在する状況では、顧客の理論が優先するようになります。この結果、設計部門では顧客ニーズに適合した多種多様な製品の設計を要求される共に、多品種多様な生産を意識した「製品設計」を行っていく必要が出てきています。

2.2 国際分業の深化

右図はASEANからの調達状況を表したものです。横軸は調達企業からの評価,縦軸は現地日系企業との優劣をあらわしています。この図でお分かりのように、ロースペックな技術でできるものは、今やASEANから、調達可能となってきています。さらにプレス加工や実装に関しては、ハイスペックな技術を要するものまでも一部調達可能となってきています。
このように海外から調達可能なものが増えていくに従い、日本でものづくりを続けていくためには小ロット品・納期の短いもの・仕様変更の多いもの・技術的難易度の高いものに対応していく必要があります。設計部門は、ハイスペックな技術向上を図るのみならず、部品選定に当たって、自製、国内調達、海外調達を部品特性に合わせて峻別していくことが、コスト・製造リードタイムの面で大変重要になります。特に、製造段階でのコスト削減は、乾いた雑巾を絞るようだともいわれているように限界に近づきつつあります。更なるコスト削減は設計部門に期待されています。

2.3 社会的責任意識の向上

「環境にやさしい」、「安心・安全の確保」といった社会的責任の達成について、顧客の関心は非常に高くなってきております。
特に品質が大きな要素となる「安心・安全」の観点から見ると、右図のように近年製品のリコール、事故報告が急増しています。ものづくりへの信頼が揺らいできているとも言えます。さらに昨年には、30年来使用の扇風機による火災事故で死亡者が発生するという事故が発生しました。部品の経年劣化が引き起こした事故でした。
この事故を重視した経済産業省は、消費生活用製品安全法を改正し、長期使用製品安全点検・表示制度を創設し平成21年4月1日から施行されます。この制度によると、経年劣化による注意喚起表示の対象となる5品目(扇風機、エアコン、換気扇、洗濯機、ブラウン管テレビ)について、消費者等に長期使用時の注意喚起を促すことが義務付けられました。一部の製品ですが、製品の経年劣化にも、法的規制が加わったこととなります。
これからの設計部門は、「環境問題」への対応はもとより、「安心・安全の確保」である品質については、経年劣化対応にも考慮していく必要が出てきています。

3.

設計部門の役割の変化
前章で述べたとおり、設計を取り巻く環境の変化は設計部門にも少なからざる影響を及ぼしています。その結果、設計部門に新たな役割が期待されています。それらは、以下の3点となります。

  1. 多品種少量生産を考慮した「製品設計」
  2. コスト削減を徹底した「製品設計」
  3. 経年劣化対応等新たな社会的責任を果たした「製品設計」

「製品設計」において、従来の目的に加えて、これら3点の視点を新たに加えて設計していくことが、これからの設計部門の役割とも言えるでしょう。
では具体的にどのような「製品設計」に変わっていくのでしょうか?

次回コラムでは、システム支援の観点から、1.多品種少量生産を実現する半見込み半受注生産管理方式を考慮した「製品設計」、2.コスト削減を徹底した「製品設計」の2点について見ていきます。
グラフ 経済産業省:2008年度版ものづくり白書より

2008年12月

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