かつてのERP導入といえば、オンプレミス環境で企業固有の要件を反映した「フルカスタマイズ型」が主流でした。しかし、近年のERPはSaaS型を中心に、パブリッククラウド環境への移行が急速に進んでいます。
この流れの中で生まれたのが、**「Fit to Standard」や「Clean Core」**といった新たな導入方針です。。
これらの思想は、業務プロセスをERPに“合わせる”ことで、将来のアップグレードや拡張性を担保し、複雑なカスタマイズを避けるという合理的なアプローチです。
しかし、この変化に伴って新たな課題も生まれています。
Fit to Standardがもたらすユーザーの戸惑い
Fit to Standardとは、標準機能を尊重し、極力カスタマイズを行わないという導入方針です。Clean Coreも、アプリケーションの中核部分に手を加えず、拡張は周辺で行うという設計思想です。
この考え方は、技術的・運用的には正しい選択です。
しかし一方で、
- •「従来の業務フローと違う」
- •「自社ルールが再現できない」
- •「UIが直感的ではなく、操作が複雑」
といった現場の“違和感”や不満が出てくるのも自然なことです。カスタマイズを制限すればするほど、ユーザーに「標準に合わせてもらう」必要が生じ、その**“落としどころ”の調整に膨大な工数**がかかってしまいます。
また、操作が複雑になることで、
- •初期トレーニングが大規模化する
- •定着化に時間がかかる
- •入力ミスが増え、後工程に負荷が波及する
といった副作用も無視できません。
その課題を解決する「DAP」の力
ここで注目されるのが、**DAP(Digital Adoption Platform)**の存在です。
DAPとは、アプリケーションの操作をガイドするツールで、実際の画面上に「どこをクリックするか」「何を入力すべきか」をインタラクティブに表示し、ユーザーが迷わず操作できるように支援する仕組みです。
DAPは単なる「オンラインマニュアルの代替」ではありません。その真価は以下の点にあります:
•ユーザートレーニングの大幅な削減
事前の集合研修や動画視聴に頼らず、実際の操作画面で学べるため、習熟が早まる。
•業務ミスの抑制・入力精度の向上
リアルタイムでガイドするため、入力ミスや手順ミスが激減。後工程の負荷も軽減。
•定着化の加速
操作を「覚える」必要がなく、「使いながら学べる」ため、現場の定着がスムーズ。
•Fit to Standardを支える“納得”の仕組み
標準プロセスを強制するのではなく、ユーザーが迷わず自然に従えるようにすることで、現場の納得感を得やすい。
標準化とユーザー体験は両立できる
Fit to StandardとClean Coreという思想は、今後のERP導入において避けて通れない方向性です。
しかしそれを現場に「受け入れてもらう」ためには、単にプロセスを定義するだけでは不十分です。
「使いこなせるようにする」支援こそが、成功のカギです。
DAPは、そのための強力な武器となります。マニュアルや説明会に頼らず、業務と学習を一体化させ、ミスを減らし、業務を定着させる。こうした**“操作の現場力”を高めるテクノロジー**こそ、SaaS型ERP時代の新たな必需品と言えるでしょう。
最後に:テクノロジーだけでなく、「変化への導線」を設計せよ
システム導入は、変化のマネジメントです。特にERPのような全社的システムでは、いかにして現場の不安や反発を吸収し、スムーズに新しいプロセスへ移行させるかが成功を分けます。
その“導線設計”の中心に、今やDAPは欠かせない存在です。 Fit to Standardを掲げるなら、DAPによる「ユーザーへの橋渡し」までを含めて、初めて本当の意味での導入戦略と呼べるのではないでしょうか。




















