2026年04月01日
牧原大成選手が示したユーティリティーの存在価値
~越境人材という戦略資産~

2月22日(日本時間23日)に閉幕したミラノ・コルティナ五輪で、日本は冬季五輪史上最多となる24個のメダルを獲得しました。中でも象徴的な存在だったのが、スピードスケート女子の高木美帆選手です。500m、1000m、女子団体追い抜きの3種目で銅メダルを獲得し、通算メダル数は日本女子史上最多の10個となりました。
15歳でバンクーバー五輪に出場し、「スーパー中学生」として注目を集めてから16年。ソチ五輪は出場を逃したものの、平昌五輪では女子団体追い抜きで金、1500mで銀、1000mで銅を獲得し、日本女子として冬季五輪初となる1大会「金銀銅」を達成しました。さらに北京五輪でも4個のメダルを積み重ねるなど、164センチという海外勢に比べれば決して大きくない体で、長年にわたり世界の第一線を走り続けてきました。
高木選手は今季限りでの現役引退を表明。最後のレースとして3月にオランダで行われた世界選手権のオールラウンダー部門に出場しました。短距離から長距離まで4種目(500m、1500m、3000m、5000m)を滑り、総合ポイントで世界一の「オールラウンダー」を決める大会です。2018年には日本勢として初優勝も果たしていますが、今大会でも500mで1位となるなど総合3位に入り、スピードとスタミナを兼ね備えたオールラウンダーとしての力を最後まで示しました。
野球界のオールラウンダーといえば、やはり大谷翔平選手を思い浮かべる人が多いでしょう。2023年のワールド・ベースボール・クラシックでは投打二刀流の活躍を見せ、日本を世界一へ導きました。さらにロサンゼルス・ドジャースでも万能ぶりを発揮し、2024年シーズンには史上初となる「50本塁打・50盗塁」を達成しています。文字通り世界最高峰のオールラウンダーといえる存在です。
ただ、チームにとって価値のある「万能選手」は、必ずしも天才的な力を持つ選手だけではありません。例えば、侍ジャパンのメンバーに選ばれた牧原大成選手。福岡ソフトバンクホークスに所属する牧原選手は2010年、育成ドラフト5位でひっそりと?プロ入りしました。俊足を武器に当初は代走として起用されることが多かったものの、二塁を本職としながら内野の全ポジションを守り、さらに外野や捕手にも挑戦しました。
「少しでも試合に出るチャンスを広げたい」という思いからさまざまなポジションに挑戦した結果、牧原選手は投手以外の全てのポジションをこなすユーティリティープレーヤーへと成長しました。昨季は、育成出身選手として初の首位打者を獲得。二塁手としてベストナインとゴールデングラブ賞にも輝きました。侍ジャパンでもスタメン出場こそ多くありませんでしたが、代走や守備固めとしてベンチにいることで、首脳陣の戦術の幅を広げる存在でした。
オールラウンダーとユーティリティー。どちらも「多くのことができる選手」という点では共通していますが、そのニュアンスには少し違いがあります。オールラウンダーは、持って生まれた才能を大きく開花させたトップアスリートというイメージが強い言葉です。一方、ユーティリティーには「使い勝手がよい」という意味があり、中心選手というよりもチームの隙間を埋める貴重なピースという位置づけではないでしょうか。
この構図は企業にも当てはまります。少子高齢化と人手不足が進む現代では、単一の専門領域だけでなく、複数の分野を横断して価値を生み出せる「越境人材」や「多能工」と呼ばれる人材の重要性が高まっています。異なる企業や組織、価値観の違う人々と関わることで視野を広げ、新しいアイデアやイノベーションを生み出す越境人材。また、複数の工程を理解しているからこそ、全体を見渡した「カイゼン」を可能にする多能工。こうした人材は組織の柔軟性を高める存在です。
一方で、一つの領域を極めた専門家こそ人材価値が高いと考えられ、多くの領域に関わる人材は「器用貧乏」と評価される傾向も依然として残っています。けれども、その評価はもはや時代に合わなくなりつつあるのではないでしょうか。
チームスポーツがそうであるように、組織やチームへの貢献の形は多様です。部門と部門をつなぐ役割、変化に応じて柔軟に対応する能力、そして新しい視点で現状を見直そうとする行動など、可視化しづらい人材価値が確かに存在します。そうした「見えない貢献」を正しく評価し、処遇に反映させていくことが、これからの組織には求められるでしょう。
最後に、越境人材や多能工を育てる「越境学習」。その成功の鍵は、本人が自発的に境界を越えようとする意思だと思います。牧原選手も最初からユーティリティーを目指していたわけではありません。自分が活躍できる場所を求めて挑戦を重ねる中で、気がつけばチームに欠かせない存在になっていたのです。
自ら可能性を広げようとする一歩が、新たな強みに気づき、自分の「立ち位置」を見つけるきっかけになります。企業に求められるのは、越境学習という挑戦を後押しする環境を整えることです。境界を越える小さな一歩が、組織の未来を変える力になるのではないでしょうか。
2026年4月
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