2024年11月01日
プロ野球監督に学ぶ「次世代経営トップの育成方法」
~内部昇格と求められる職務経験~
今季のプロ野球ペナントレースはセ・リーグが阿部慎之助監督率いる巨人、パ・リーグは小久保裕紀監督率いるソフトバンクが制しました。ともに就任1年目ながら巧みな選手起用でチームをまとめ、全員に同じ方向を向かせて勝ち進みました。そんな両監督には新人監督であること以外に、優勝へ導いた大きな要因のひとつであろう共通点があります。それは、ともにチームの2軍監督と1軍ヘッドコーチの両方を務めていた経験があることです。
ひと昔前までは、チームの主力だった選手が1軍監督に就任する前にヘッドコーチなどで監督の横にいて帝王学を学ぶケースが多くみられました。王貞治氏は助監督として藤田元司監督の下で、原辰徳氏は長嶋茂雄監督の下でヘッドコーチとして学びました。1軍で監督に近い要職で監督業を肌で感じることで主力選手の実力や性格を見極め、チーム全体を理解するとともにライバル球団の戦力把握や的確な意思決定ができるようになるのでしょう。
ところが最近は、2軍監督から1軍監督に就任するケースが増えてきました。2021年にヤクルトとオリックスがともに「前年の最下位から優勝」を達成して話題となりましたが、もうひとつの共通点としてヤクルトの高津臣吾監督とオリックスの中嶋聡監督がどちらも2軍監督からの内部昇格組であったことが挙げられました。2軍監督時代から注目していた選手を1軍の戦力として抜擢し、その活躍もあっての優勝でした。2軍から抜擢した選手の技術面だけでなく性格も把握していたことにより、どのように使えばその選手が力を発揮できるか見極められていた2軍監督からの昇格監督だったからこそ、とも言えます。
2軍であってもひとつの集団のトップとして責任のある立場で決断し、目的に向かって組織を導いていくことは、1軍ヘッドコーチでは得られない経験となります。1軍ヘッドコーチだけでなく、2軍監督の両方を経験することが、1軍監督として成功するための近道なのかもしれません。
次世代の経営トップ人材をいかに育成していくのかは、全ての企業にとって重要な課題です。先行き不透明で変化のスピードが速い時代において、戦略的かつ実行力をもって対応できる資質を持った経営人材の育成は、企業の持続的成長にとって必要不可欠となっています。
特に経営トップは正解がない環境に身を置き、不確実性が高くあいまいな状況で自ら意思決定しなければなりません。そのような特殊な職務を遂行する人材の育成にはいくつかのアプローチがあります。代表的な例として、経営トップに近いポストに就かせてOJTで鍛える方法や小規模な海外子会社等に社長として派遣して経験を積んでもらう方法があります。野球に例えるなら、前者は1軍のヘッドコーチ、後者は2軍監督でしょうか。
1軍ヘッドコーチ、すなわち経営トップの側近に座ることは、会社の業務全般に必要な知識と経験を得ることができます。企業は通常、製造や営業など各部門が専門性を持って分業しているため、経営トップがそれぞれの専門家に負けない専門性を持つ必要はありません。しかし、社内のコンフリクトを解決するのは経営の仕事です。そのためには各部門の専門的な意見について、ある程度理解できる能力を会得しておく必要があります。
もう一つは2軍監督。営業や製造、開発など特定の職能組織の管理職ではなく、すべての職能組織を束ねてさまざまな決断を自らの責任で下す経験です。小さな企業であっても自分一人でできることは限られており、誰に何を任せるのか考え、信じるに足る人を選んでその人を信頼して託しつつ必要な時のみフォローして全体の舵取りをする。こうした「自分より能力がある人」にうまく活躍してもらうスキルは必要不可欠になります。
さて、1軍ヘッドコーチであれ2軍監督であれ、どちらも「内部昇格」に変わりはありません。なぜ「内部昇格」なのか。規模の大小を問わず組織は、独自の組織文化というものを有しています。組織文化は、組織の価値観、行動規範などを具体化したものであり、競争力の源泉となっています。したがって、経営トップには企業文化を深く理解し、それを引き継ぎながら成長を図り、会社を存続させていく内部人材が求められているのでしょう。
最後に、経営トップとして自社の持続的成長を願うなら「自分がいないと困る会社」から「自分がいなくてもよい会社」にすることを念頭に置いて、自らが後継者育成に深く関与しなければなりません。
経営トップは孤独であり、他人から嫌われたり憎まれたり、いわれのない批判などにも惑わされず、大局的に判断しながら粛々と仕事ができるタフな資質が必要です。そんな適性を見極めて、まずは「人」を選び、その「人」に必要なスキルや能力を身につけるための経験や教育の場を提供していくことが、経営者の重要な責務となります。
2024年11月
ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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