社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2024年08月01日

青鳥特別支援学校の挑戦
~人との関わり合いの中での成長~

紫陽花

全国各地で熱戦が繰り広げられた高校野球の地方大会。西東京大会では7月7日に高校野球の歴史に新たな1ページを刻む試合が行われました。青鳥特別支援学校が、特別支援学校(以後、特支)として史上初めて単独チームで出場したのです。
日本高野連に加盟して初めて夏の地方大会に参加したのは2016年の鹿児島特支で、鹿児島修学館など4校の連合チームで出場。22年には豊川特支(愛知)の選手がやはり連合チームに加わりました。青鳥特支は昨夏、松蔭大松蔭、深沢との連合チームで初出場。今年は部員12人でついに単独チームとしてグラウンドに立ちました。試合は東村山西に0-66の5回コールドと東西を含めた東京大会の最多得点記録を作られて敗れましたが、途中棄権することなく最後まで懸命に打球を追った選手たちに大きな拍手が送られました。
初回に先頭打者がいきなり右前安打。これが唯一の安打でしたが大きな、大きな1本になりました。18本塁打を含む55安打され、30盗塁を許しましたが、フライをキャッチすればガッツポーズで喜びを表し、15のアウトを取り切りました。久保田浩司監督は「点差がついても諦めず、声を出し続けた選手の姿がうれしい。他の特別支援学校が公式戦に出場するための歴史的に大きな一歩」と感慨深そうに話していたそうです。

障害のある子供たちにとって、まず野球のルールを覚えるのが大変であり、硬球を金属バットで打つスポーツには危険が伴います。以前から「安全面の心配があるから」という理由で「どうすれば可能か」という建設的な議論すらされない状況に、久保田監督は2021年3月に「甲子園夢プロジェクト」をスタートさせました。全国の特支に参加を呼びかけ、元プロ野球選手に指導を仰ぐなどして、少しずつ取り組みは実を結んでいきました。甲子園経験のある強豪校との合同練習も実現。その様子を見た久保田監督は「技術の高い彼らが一方的に “教える”のではなく、対等にプレーしているのが伝わってきた」と感じたそうです。そうした経験が少しずつ選手たちの成長にもつながっていきました。

近年、障害者も自立した生活を送れるようになることが求められており、障害者の就労意欲も高まっています。また、障害者を雇用することは企業や自治体が果たすべき社会的責任とされ、国は事業主に対して法定雇用率以上の障害者を雇用することを義務づけています。
企業としてもダイバーシティ&インクルージョンがうたわれている中、障害に関係なく、あらゆる人が自分自身の能力や希望に応じて仕事ができるよう、施設のバリアフリー化など様々な環境整備を進めてきています。
加えて、ITやロボットなどのテクノロジーの進化も障害者の働き方を改善してきています。パソコンやスマホの登場やテレワークの浸透は「通勤」の障壁を取り除き、障害者が担える業務の幅を拡大させました。最近では、テキストだけでなく音声や画像の入力を同時に処理できるマルチモーダル能力を強化したGPT-4oも発表され、AIが人間の「目」や「耳」、「声」の代わりを果たす日が近づいています。
すでに、聴覚障害者向けにはAIが音声を認識し手話に変換したり、逆に手話から音声に変換することが瞬時に行えるようになったり、視覚障害者にはAI画像認識技術を使った読み上げシステムや「AIスーツケース」などの自律走行型ロボットなども開発されています。

人は、人との関わり合いの中で成長していきます。今回の史上初の試合は、彼らにとって単なる勝ち負けではなく、投げること、打つこと、守ること、走ること、それ自体が成長の証しであったと思います。そして、心から喜び合える仲間がいることも実感できたのではないでしょうか。そんな仲間と挑戦した日々が、将来社会に出た時に自分自身を支える土台となるでしょう。
今回の挑戦は第一歩に過ぎません。その先に見据えるのは健常者か障害者かの隔たりなく、同じ球児として甲子園を目指す戦いをすること。「知的障害があっても、硬式野球はできます」と断言する久保田監督。いつかきっと素晴らしい個性派集団として甲子園の晴れ舞台でプレーする日を夢見て、彼らの挑戦は続いていきます。

*当コラムでは「障害」という表現を使用しておりますが、「害」という漢字を否定的に捉える意図はございません。また、常用漢字を使用するための表記であることをご理解いただけますようお願い申し上げます。

2024年8月

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