社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2021年09月01日

「楽しむ」ことの重要性
~金メダリストの言葉~

cluster amaryllis

東京オリンピックが閉幕しました。緊急事態宣言下の東京を中心に行われたスポーツの祭典。日本は前回のリオデジャネイロ大会を大きく上回る史上最多の58個のメダルを獲得しました。
中でも目立ったのは、新競技のスケートボードなどでの10代選手の活躍です。これまでほとんど馴染みのなかったスケートボードを見ていると、まさに公園でみんなが難しい技への成功を競っているようで、彼ら、彼女らの競技に対する姿勢はとても新鮮なものでした。
女子パークで金メダルを獲得した四十住(よそずみ)さくら選手(19)は、「本番を振り返ってみて、ただ楽しかった。人種、肌の色、性別、年齢なんて関係なくて喜びや、感動、悔しさとかみんなで共有して楽しむスケートボードが私は大好きです」と語りました。

今大会を通じて、多くの選手のコメントで「楽しむ」というワードが聞かれました。「本当に楽しかったです」、「思い切り楽しめました」。スケートボードやサーフィンは大会前に「これがスポーツなのか?」という疑問の声もありましたが、「スポーツ」とは本来「競技」ではなく「気晴らし」や「遊び」が語源なのです。だからこそ「楽しむ」という意識が大切ではないでしょうか。
「遊び」だから「ゲーム」、「遊ぶ人」だから「プレーヤー」。ところが日本語では、「試合」、「選手」となり、少し意味合いが違ってきてしまいます。
「つらく苦しい、血のにじむような努力の末に得られるものが勝利」という日本の昔からの根性論では「勝つこと」と「楽しむこと」はある意味反対の言葉でした。しかし、多くのアスリートがその競技を始めるきっかけは「楽しいから」だったはずです。楽しいから「もっとやりたい、もっとうまくなりたい」と思って練習する。それが自身の成長につながってきたはずです。

心理学者チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)は「フロー体験」(flow experience)を提唱しました。フローとは、目標達成に向けて自己の持つスキルを発揮し、自分の存在を忘れ時間感覚が消えるほど没頭できた時に生じる「楽しさ」「ワクワク感」「充実感」などに代表される心理状態のことで、最近では「ゾーンに入る」という表現もあります。
また、フローの状態に入るための条件として、①活動そのものが好きである、②簡単ではないが達成不可能ではない明確な目標がある、③今どのくらいうまくいっているかのフィードバックがある、などいくつかを挙げています。
卓球で日本初の金メダルを獲得した、混合ダブルスの伊藤美誠選手の「特に準々決勝は苦しい場面を何度も乗り越えて。なので準決勝、決勝はすごく楽しかった。中国選手と対戦するのは毎回楽しくて・・」というコメントは、まさに上記の条件を満たしたフローの状態だったと思えますが、フロー体験はトップアスリートのみならず、すべての人々に開かれているとしています。

ただ残念ながら、我々の日々の定常的な業務においてフローの状態に入る可能性は極めて少ないと言わざるを得ません。好き嫌いだけで仕事が選べるほど世の中は甘くないですし、「毎日仕事が楽しくてしょうがない」という言葉を聞くことも滅多にありません。
それでも社員一人ひとりが、人生において大きなウエイトを占める仕事の時間を少しでも楽しむことが多くなれば、その人の人生はより豊かなものになるでしょう。また、社員のモチベーションの向上によって、大切な人材の流出防止や生産性向上など様々な面で組織に好影響も与えるはずです。
最年少金メダリストとなった女子ストリートの西矢椛(もみじ)選手(13)は、スケートボードの楽しさについて「みんな、おーっ、とか言ってくれるから、それが楽しい」とコメントしています。 仕事においても、目標の達成や誰かに認められるといった「達成感」、誰でもできる仕事ではなく自分の能力だからこそ成し遂げられるという「有能感」、そしてこの仕事は自分自身が好きで選んだという「自律性」が伴えば、フロー状態に入りやすく、仕事を「楽しむ」ことができるようになると思います。職場でより多くのフロー体験を得るために、「達成感」「有能感」「自律性」の3つを意識したジョブアサインや評価、コミュニケーションの仕組み作りが重要だと考えています。

少子高齢化が進む日本で企業が生き残っていくためには、既存の枠組みから脱却し、新たな価値を生み出すイノベーションの創出が必須であると言われています。マニュアル通り義務的に仕事をするのではなく、社員が楽しい、面白いと思って全力を尽くしてこそ、イノベーションを引き起こすことができると思います。
孔子の『論語』の中では、「これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如(し)かず。」という教えがあります。また「自分が楽しまないと本当の仕事はできない。自分が楽しんで仕事をすれば、それが会社の為にも世の中の為にもなる。」とは、本田技研工業の元社長福井威夫氏の言葉です。
いつの時代も何かをやりとげるには、「楽しむ」ことが重要なのです。

最後に、柔道男子73キロ級で2連覇を達成した大野将平選手は「五輪は楽しむ場ではない。僕にとっては生きるか死ぬかの戦場です。」とコメントしました。
私たちは「この次、頑張れば良い」などと自分に言い聞かせて、命を懸けるほど全力で物事に対峙することを、しばしば避けようとしてしまいます。目の前の困難に命を懸けて全力で立ち向かう大きな意義。これもまた心に響いた名言でした。

2021年9月

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