社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2021年01月01日

ESGパーパス経営で将来の人類を幸せにする
~ジャック・アタリのモウコリタ(忘己利他)~

新春

新年あけましておめでとうございます。令和も3年目となり呼称にも馴染んできました。昨年は新型コロナ対応で明け暮れた1年でしたが、その間に安倍前首相の突然の辞任、米国大統領選でのバイデン氏の勝利(執筆時点ではほぼ確定)という政治的に大きな節目も迎えました。当社の株主であるIBMがインフラ運用サービスを分社化する発表もIT業界では大きなニュースでした。それぞれに是非があると思いますが、歴史が前に進むという視点では必然の事象ではないかと思っています。そして今年は昨年からリバウンドして良い年になる事を期待したいものですね。なんといっても東京オリンピックの開催があります。その成功に向けてコロナワクチンが全国に行き渡る事によるコロナ禍の終息、デジタル庁の新設による産・官・学のDX化の進展、バイデン外交による米中関係の軟化やトランプ時代のポピュリズム(自国優先主義)からの脱却など日本経済の成長に寄与しそうな話題が今年は多くあります。

一方で懸念する事項もいくつかあり、その一つは昨年のコロナ禍救済と景気対策に費やした為に新規国債発行が112兆円と過去最多となり、昨年度の歳出の64・1%を借金に頼らざるを得ないという異常事態となっている事です。その借金の返済が財政の健全化につながるのですが、それは今の子供たちにつけが回るという事に他ならず、心が痛みます。ただでさえ少子高齢化社会が進んで現役世代の負担も大きくなっていますが、彼らの子供達はこのままではそれ以上の負担を強いられる事になりそうです。

もう一つ気になっている事は米国内でのリベラリズムとポピュリズムの分断が深刻なことです。これについて“欧州の知性”とも称されるフランスの思想家・経済学者であるジャック・アタリ氏が2016年時点の世界状況を分析し、その結果をもとに2030年の世界を大胆に予測した著書『2030年ジャック・アタリの未来予測』の示唆が見事に当てはまっています。アタリ氏は、今の世界が「憤まん(怒りのやり場がない思い)の社会構造」になっており、その原因は「市場」と「民主主義」の関係がグローバリゼーションの影響で不安定になったからである、と指摘しています。資本主義経済の下で20世紀の市場は民主主義によりルール化され、互いに影響を与えながら強化されてきました。ところが21世紀に入りグローバリゼーションが進展すると市場が暴走し始め、グローバルな市場を縛る明示的な法律や仕組みが存在しないことが原因で、市場での成功者に富が集中し格差が広がりました。そして市場で自由が追求されると、「自分さえ良ければいい」という利己主義的風潮がまん延してくる。これに関してもグローバルな市場ではコントロールするすべがない。貧富の格差は国際間でも深刻でアメリカンドリームを求めて移民が流入し、それが既存住民の生活を圧迫するという偏見により、米国や英国をはじめとする欧米のポピュリズムが一定の層に支持され、リベラル派との対立構造の背景になっています。果たしてバイデン新大統領はアタリ氏の悲観的な予測を覆して現在の米国の分断を融合させ、再び世界のリーダーとして尊敬される国に戻すことができるのでしょうか。

アタリ氏は、希望はあると言っています。それは利己主義の逆、「利他主義」が浸透する事です。自分の為だけでなく、他者、そして次世代のために行動する、ということが悪循環を好転させる。利己主義が世界を滅ぼそうとしているのならば、逆に私たち一人ひとりが自らの内面を変革し、利他主義者を目指せばいい、ということをメッセージしています。この利他主義は昨今はやりのESG経営やパーパス経営と相通じるものだと思います。これは格差社会の上位にいる層は富の社会還流を意識し、中位下位層は昔を懐かしみ権利ばかり主張するのではなく、自助努力し多様性を受け容れる社会に変わっていく事を目指しています。ESGなど言葉は新しいですが、昔からこの考え方は米国社会にもあり、ジョン・F・ケネディ大統領の演説にも「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」という有名な一節があり利他主義の考え方を説いています。

振り返って日本では昔からこの考え方がありますね。利他と聞いて「忘己利他(もうこりた)」を頭に浮かべる人も多いのではないでしょうか。天台宗の宗祖伝教大師最澄の「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」というお言葉からきているそうです。また「情けは人の為ならず」のことわざもありますが、これも利他主義を示すものです。近江商人の「三方よし」も買い手よし売り手よし世間よし、という社会貢献の考え方が入っています。昔の日本人はたいしたものだと心底思います。今の日本が平成の失われた30年でアタリ氏の悲観的予測にあるような「憤まんの社会構造」に陥っている事は否めませんが、令和になって利他主義がじわじわと社会や企業に浸透し、ESGパーパス経営を推進するようになれば我々の孫の世代に禍根を残さずに済むかもしれません。ぜひともそうあって欲しいと思います。社会的使命とビジネスをいかに両立させていくか、パーパス経営はそれを我々に問いかけています。

当社はこれまでも社員、お客様、協力会社、株主、そして社会というステークホルダーを意識したCSR経営を推進してきましたが、これからは加えて将来社会も意識したESGパーパス経営を推進する時期に来ています。当社の長期経営ビジョンのサブ解説にお客様にとってなくては困る会社、社員が誇りを持てる会社というのがありますが、そこに人類の幸福に貢献する会社という想いも加えたいと思います。

2021年1月

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