2012年06月01日
過年度遡及修正とその影響
3月決算の会社では、平成24年3月期より過年度遡及修正に関する会計基準が適用されています。過年度遡及修正とは、当期に行われた変更などを前年度以前の決算について遡って修正することをいいます。
従来は、会計方針の変更や過去の誤謬の訂正に関する影響は、当期の決算書の特別損益(前期損益修正額)として計上されていました。過年度遡及修正に関する会計基準の適用後は、これらの影響を前期以前の決算に反映させるため、前期損益修正額は計上されません。
この会計基準の適用に伴い、財務諸表規則における比較情報といった考え方の導入や会計上の見積りに関する対応など従来と異なる点があるので注意が必要です。今回は、過年度遡及修正についてまとめていきたいと思います。
会計上の変更と誤謬の訂正
諸外国で一般的である過年度遡及修正は、IFRSへのコンバージェンスの一環として導入されました。過年度遡及修正に関する会計基準の正式名称は、「会計上の変更と誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準24号)といいます。
会計基準の名称に使われている「会計上の変更」という用語は、新たに設けられたもので、会計方針の変更、表示方法の変更と会計上の見積りの変更を合わせた概念です。それぞれの項目の過年度遡及修正の要否は、以下のようになっています。
会計方針の変更、表示方法の変更
会計方針の変更や表示方法の変更については、従来は、過年度の決算を遡って修正することはできませんでしたが、これからは実務上対応可能な限り過年度に遡った修正が必要になります。合理的な努力を行っても原則的な過年度遡及修正の影響が算出できない場合など、実務上対応不可能な場合には、その理由などを記載する必要があります。
今後、会計方針の変更(会計基準等の改正に伴う変更含む)を行う場合には、事前にどこまで遡れるかを変更前に考えておかなければいけません。さらに、原則的な方法によらない場合であれば、その許容レベルの妥当性について会計監査人(もしくは監査役)と事前すり合せを行うことが必要になってきます。
また、遡及修正の財務諸表への反映方法は、会社法の計算書類と有価証券報告書の財務諸表で取扱いが異なります。これは、会社法では、当期の計算書類のみが開示されるのに対して、有価証券報告書では、当期と前期の2期分の財務諸表が並記して開示されているためです。会社法では、前期分の計算書類は開示しないので、当期の計算書類の関連科目に関する期首残高を修正します。一方で、有価証券報告書では、前期財務諸表の関連科目に関する期首残高を修正します。
さらに、財務諸表規則(以下、財規)おいては、過年度遡及修正に関する会計基準の適用開始に伴い、新たに比較情報(財規6条、連結財規8条の3)という考え方が採られています。これまでは、2期並期された財務諸表の前期分は、一字一句変わらずそのまま転写されていました。遡及修正が行われれば、以前に公表した財務諸表と異なる財務諸表が、新たに作成されます。前期分の変更後財務諸表は当期の財務諸表の一部を構成しているとして、当期分と一緒に財務諸表監査を受けることが必要になります。
見積りの変更
会計上の見積りとは、引当金や減損損失など計上金額に不確実性が見込まれる場合に行われる予測をいいます。この予測を行う上での前提や方法を変更することが会計上の見積りの変更です。有形固定資産の耐用年数を変更する場合などがこれにあたります。
見積りの変更に関連する注目すべき変更点として貸倒引当金戻入額の取り扱いがあります。貸倒引当金戻入額は、これまで過年度損益修正額として特別利益の区分で計上していました。過年度遡及修正会計基準の適用後においては、貸倒引当金戻入額は、原則として営業費用又は営業外費用から控除するか、営業外収益として計上されることになります。これに関して金融商品会計基準適用指針は、以下のように改正されています。
<貸倒引当金繰入額と取崩額の表示> ~金融商品会計基準適用指針より
◆改正前◆ |
◆改正後◆ 125.当事業年度末における貸倒引当金のうち直接償却により債権額と相殺した後の不要となった残額があるときは、これを取り崩さなければならない。ただし、当該取崩額はこれを当期繰入額と相殺し、繰入額の方が多い場合にはその差額を繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準によって営業費用又は営業外費用に計上するものとする。また、取崩額の方が大きい場合には、過年度遡及会計基準第55項に従って、原則として営業費用又は営業外費用から控除するか営業外収益として当該期間に認識する。 |
過年度遡及修正に関する会計基準の下で、会計上の見積りが、大幅にズレてしまった場合には、過年度の見積り誤りがあったことになってしまいます。見積り誤りを原因とする引当金の過不足は、過去の誤謬に該当するため、原則として遡及修正処理が必要になります。
しかし、過年度遡及に関する会計基準第55項では、最善の見積りを行った結果において生じてしまった見積り差額については、過去の誤謬にはあたらないものとして遡及修正処理は不要とされています。従来のように前期損益修正額として計上することはできないので、過年度遡及処理をしないとすれば、当期の営業費用か営業外損益で処理するほかありません。
誤謬の訂正
過去の誤謬による遡及修正(修正再表示)が行われた場合には、過年度遡及修正に関する会計基準第22項に基づいて注記が必要になります。この注記についても会社法の計算書類と有価証券報告書の財務諸表で取扱いが異なるので注意が必要です。
このような違いは、過年度の誤謬について、金融商品取引法では、訂正報告書の作成が義務付けられていますが、会社法ではそのような制度がないことに起因しています。
上場会社において、不正経理などにより過去の誤謬が発見された場合には、速やかに訂正報告書が提出されます。遡及修正処理が必要となる前に訂正報告書が提出されて、有価証券報告書に記載された過去の財務諸表は、訂正後のものに正式に置き換えられます。このため、過去の誤謬に関する注記(過年度遡及会計基準22項)は不要となります。
一方で、金融商品取引法に基づく訂正報告書による手当てが行われても、会社法の計算書類には、何ら法的な影響を与えません。会社法の計算書類では、過年度遡及修正に関する基準に従って過去の誤謬に関する注記が必要になります。
2012年6月
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