ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2020年12月01日

コロナ禍で加速する自動車産業の変革

コロナ禍は健康や経済などに甚大なダメージを与えていますが、見方によってはプラスに働いた面もいくつかあります。例えば、これまで難しかったリモートワークや脱ハンコが一気に進みました。もう一つ、世界各国が深刻な問題として捉えてきた地球温暖化を抑制するために、これまで目標としていたCO2の対前年削減目標8%が、今年初めて達成できそうな見通しです。地球温暖化による気候変動や海面上昇は他人事に止まらず、深刻な台風水害や猛暑などの気象災害が既に私たちの身近な脅威となっていて、脱炭素社会は喫緊の課題です。2015年に制定されたパリ協定の1.5℃目標達成には、まさに毎年8%程度の排出削減が必要とされていたのですが、残念ながらこれまで未達が続いていました。ロックダウンや経済活動自粛という意図しない施策ではあったものの、削減目標8%は達成可能だということが認識できました。

アフターコロナに向けて経済回復をして行くにしても、コロナ以前のCO2を排出する経済に戻すのではなく、規制やイノベーション、そして企業や産業の構造改革による脱炭素経済にしていく必要があります。このため各国政府や企業は、コロナ禍を好機と捉え、エネルギー転換の促進や産業構造も大きく変えて、一気に脱炭素に舵を切っていこうとする機運が高まっています。

この動きをリードするのが、従前より環境規制に熱心なEUです。グリーンリカバリー(環境に配慮した経済復興)を合言葉に、アフターコロナでは従来型の経済に戻すのではなく、環境に配慮した、持続可能な経済社会をつくろうとしています。その目玉となるのが、コロナ禍で痛んだ経済を回復するためのエンジンとしての脱炭素化です。脱炭素はどの国にとっても既存の産業構造を大きく変える必要があるため大変難しく、中々進まないのが実態でした。しかし、コロナ禍を契機に、これまで脱炭素に必ずしも積極的でなかった国も含めて、CO2削減目標達成を前倒しにする動きが各国で出始めました。

主要各国の温暖化ガス排出目標図表1:主要各国の温暖化ガス排出目標(丸印はCO2排出量のイメージ)
出典:日経新聞記事、エネルギー経済統計要覧を元に編集加工
(クリックして拡大できます)
 

まず、先頭を走るEUは、既に2050年実質ゼロの目標を表明した上で、2030年には削減目標を従来の40%から55%以上に引き上げると発表しています。次に、世界全体のCO2排出量の3割近くを占める中国も、この9月の国連総会で2060年までに実質ゼロを目指すと表明しました。これまで中国は、排出責任は先進国にあり、自国は途上国であるとして、総量削減目標は表明してきませんでした。それなりの経済面の思惑があるにせよ、この方針転換は世界の脱炭素化にとって大きな進展です。さらに、中国に次いで大きなCO2排出割合を占めているアメリカにも進展が起こりそうです。現政権は脱炭素に積極的でなく、パリ協定にも否定的で大統領選の翌日にパリ協定を離脱しました。ところが選挙の結果、次期政権は、パリ協定に戻ることだけでなく、2050年に実質ゼロを選挙公約に明記しており、脱炭素に積極的に取り組むはずです。

では日本はどうでしょう。実はこれまで脱炭素の方針は掲げるものの、「21世紀後半の早期に脱炭素社会を実現」と述べるだけで、具体的な年限目標は示してきませんでした。石炭火力発電からの明確な脱却方針もないため国連から非難を浴び、コロナ禍の経済対策でも脱炭素社会へ移行を促す要素はほとんど見られませんでした。しかし、この10月末の新首相の所信表明で、ようやく2050年実質ゼロの目標を掲げるようになりました。

この結果、世界の主要国がいよいよ本格的に脱炭素に取り組んでいくことになります。その取り組みの一つが、世界各国や州によるガソリン車の規制、EV車購入補助金、充電設備への投資です。既に中国、ドイツ、英国、インドなど世界の15カ国がガソリン車を規制する目標を掲げています。世界最大の自動車市場である中国は、新エネルギー車の新車販売に占める割合を現在の5%から2025年には25%に引き上げる目標を掲げました。英国は脱ガソリン車を当初の2040年から2035年に前倒しし、今回さらに2030年に早めて、環境配慮の姿勢を明確にしています。米国内自動車販売の4割を占めるカリフォルニア州も2035年までに新車販売は排ガスを出さないゼロエミッション車にすることを義務づけ、カナダの大都市を抱えるケベック州も2035年までにガソリンの新車販売を禁止すると発表しています。

このようにEV化が進むと、自動運転も併せて進展していきます。中国は2025年には新車販売の5割を条件付き自動運転車(レベル3)にする目標を設定しています。EV化を起点にネットワーク化、ソフト化が進み、自動車産業は大きく変わっていきます。

EV化を起点とする自動車産業の変革

図表2:EV化を起点とする自動車産業の変革

日本は、CO2削減の目標をようやく明確にしたものの、具体策はこれからです。自動車販売におけるEVの割合も、独・仏・英国は最近急速に増加し既に6-8%に達しているのに対し、日本はまだ1%以下です。世界の脱ガソリン車の急速な流れの中で、日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーが世界市場のEVシフトにいかに対応するのか、どのようなビジネスモデルに転換していくのか、期待をもって見ていきたいと思います。

2020年12月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読