ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2016年12月01日

持続的成長のための管理会計⑤
全員活躍の管理会計

変化し続ける事業環境に対応し持続的な成長を遂げるためには、適切な判断や意思決定を速やかに行い実行するスピード経営が必要になります。実際に事業を遂行するのは人です。従業員の意識を高め、最大限に能力を引き出すために、権限の移譲とあわせて管理会計制度を工夫する企業は多くあります。従業員の力を引き出し、事業環境の変化や競争を優位にすすめる手法についてお話しします。

ミニプロフィットセンターの活用

従業員の経営意識を高め自律的な活動を促進するための手法としてミニプロフィットセンターがあります。通常は利益を獲得するために必要な販売や製造機能を有する単位をプロフィットセンターとしますが、ミニプロフィットセンターでは本来はコストセンターである製造などの機能部門もプロフィットセンターとします。ミニプロフィットセンターの活用は従業員の意識を変え、従業員の育成にも効果があると言われています。

日本においてはミニプロフィットセンターを採用する企業が少なくなく、様々なバリエーションがあります。採用企業はミニプロフィットセンターにいる従業員の力を引き出すために、生産数などコスト面の数字だけでなく利益を評価指標に取り入れる、各プロフィットセンターの成績を日次で迅速に提供するなどの方策をとっています。

利益を評価指標に取り入れることで、製造部門であれば、生産の効率化で得た余裕時間を他の製品生産に振り向ける、他のミニプロフィットセンターへの応援が行われるなど業務の改善が見られます。営業部門であれば、売上高でなく粗利益、営業利益を意識した行動に繋がります。迅速に成績を提供すると、即時に現場で改善効果を認識でき、さらなる改善などに繋がることがあります。また、全ミニプロフィットセンターの成績を公開し、競争を促すことも行っています。

また、ミニプロフィットセンター化により社内売買が生じます。自部門の評価を良くするために社内販売価格アップのための社内交渉などが発生します。これら浪費と考えられる動きを防止するために、社内販売価格の決定に外部での売買価格を参考にするなどの工夫も必要です。また、全社目標と各ミニプロフィットセンターの役割についてのトレーニングも行います。

脱予算経営(Beyond Budgeting Model, BBM)の活用

伝統的な予算管理制度の課題を克服するために考えられた手法です。ここでの予算管理上の課題とは、従業員が評価を上げるために「達成可能な目標を設定すること」、実行段階では環境が変化しているにも関わらず決定された計画が執行され「環境変化対応が不十分となること」の2つです。これらの課題を克服するためにBBMでは、ライバル企業との関係を意識した相対的な目標を設定し、継続的な計画策定を行うことを方策としています。

ライバル企業を意識した目標値設定とは、売上高、利益、収益性などでライバルを抜く、引き離す、市場シェアで○割を獲得するなど、相対的な目標値設定のことです。これらの企業目標値をベースに部門や個人の目標を設定すれば、企業もその中の部門や個人も高い目標を掲げることになります。各人が最大限の努力を引き出すためのベースとなる目標が出来上がるわけです。

継続的な計画策定は、高い目標を維持し、相対的目標を達成するために将来計画を常に見直すものです。仮に当初の相対的目標を市場シェア20%獲得、売上目標100億円とした場合、市場が計画時の前提よりも延びると、売上目標を達成しても相対的目標を達成できるとは限りません。実行後の環境変化から相対的目標は達成できる見通しか、目標を変更する必要があるかを継続的に評価し、計画も継続的に見直します。変化し続ける環境を見据えて対応策を打っていくために、例えば常に向こう15カ月の目標を持ち、毎月計画を見直すなどの運用を行います。

こうすることで、各従業員が高い目標に挑戦し続ける環境が出来上がることになります。

業績情報や情報活用環境の必要性

今回紹介した、ミニプロフィットセンターやBBMは制度を推進する上で情報の提供や活用環境の準備が必要になります。例えば、ミニプロフィットセンターでは、社内管理用にミニプロフィットセンターの業績把握や、日次単位での業績集計・提供などが求められます。BBMでは、事業環境を把握し、常に計画を見直すことが想定されています。現在の施策を実行した場合と新たな施策を実行した場合の予測についての情報提供が必要です。現行製品の販売増減や、新製品や投資による投資採算シミュレーション機能などの準備も必要になります。

ミニプロフィットセンターやBBMは、組織や従業員の力を引き出す手法です。とは言え、効果を出すには従業員の意識変革も必要だし、時間がかかる場合もあります。ただ、ITの進歩や利用範囲拡大で、必要となる情報提供や情報活用環境の準備は以前よりも格段に容易になっているのは確かです。権限を委譲して従業員の意識改革をおこない利益獲得活動を促進したい、事業環境の変化に対応したいなどとお考えであれば、ミニプロフィットセンターやBBMの検討をされてはいかがでしょう。

5回にわたり「持続的成長のための管理会計」というテーマで、経営管理基盤となる管理会計の見直しの視点についてお話ししました。みなさまの管理会計見直しに役立てば幸いです。


2016年12月

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