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2016年11月01日

ビジネスモデルを変える⑪
自動運転車がもたらす破壊的イノベーション

完全自動運転車の普及は、もはや遠い先の話ではなくなってきています。 2021年までにハンドルとペダルのない自動運転車を発売すると発表しているフォード社を始めとして、自動車メーカー各社が競って自動運転車の開発を進めています。前回のコラムでは、完全自動運転車の普及による販売面の変化について述べましたが、今回はものづくり面の変化を見ていきます。

自動運転車によるものづくり面の変化
図. 自動運転車によるものづくり面の変化

まず、完全自動運転車は、人間のドライバーの目の代わりをするセンサーやカメラがキーパーツとなります。すでに現在普及している自動車でも、車間や車線を読み取るセンサーやカメラを備えています。完全自動運転車となると信号や横断者、車道上の落下物や作業中のコーン、側道の樹木などを識別するために、カメラやセンサーの数が増え、高性能の超音波センサーやレーザーレーダーが搭載されるようになっていきます。

次に、人間のドライバーに代わり、状況に応じて適切に運転するソフトウエアが完全自動運転車の要となってきます。日常の道路上では、無理な割り込みや不意の飛び出し、大雨や霧による視界不良時の運転など、ドライバーは時々に瞬時の判断が求められます。このような「まさか」の連続にも、完全自動運転車用のソフトウエアは的確に対応できなくてはいけません。こうした対応ができるソフトウエアは、そのサイズも、スペースシャトル運航のソフトウエアよりも大きくなると見られています。また、アメリカのある道路でひどい渋滞が起こり、警察が調べに行くと、その渋滞の先頭には法定速度を厳格に守る自動運転のテスト車があったとの話もあります。状況に応じた人間並みの運転能力を持つには、実走行からの大量のビッグデータを分析し、それをもとに人間の運転技術に匹敵する知能やノウハウを持つソフトウエアが必要となります。

さらに、完全自動運転車の普及には高精密な3Dマップ(3次元地図)も不可欠となります。車線の検出や車間距離を保った走行はセンサーでも可能ですが、道路が分岐する際のレーン選択や右折専用レーンへの移動にスムーズに対応するには、道路上の車の位置を正確に把握する必要があります。特に日本の道路では複雑な交差点や、目の前にいくつも信号機があるなど、人間でも戸惑うケースがあります。信号や横断歩道の位置情報、高速道路と一般道路の上下の区別なども自動運転車が識別できるように、精度の高い3Dマップの整備と更新が必要となります。

完全自動運転車の普及による4つ目の変化は、EV(電気自動車)の普及の拡大です。完全自動運転車の普及に伴い、移動サービスを提供する企業が車の所有者となり、企業は事業収益を上げるために初期費用は多少高くてもランニングコストが安いEVを採用すると考えられます。欧米では、環境規制強化に伴い、既にEVの販売が急速に拡大しつつありますが、完全自動運転車の普及により、EV普及がさらに加速していくことになります。EVになると自動車部品の主役はエンジン関連ではなく、モーターや電池に替わっていき、特に電池の容量や信頼性、耐久性はEV車の差別化要因となります。また、ガソリン車両が約30,000点の部品から成るのに対して、EV車だとその3分の1の部品で済むため構造もシンプルになり、EV市場への参入障壁が低くなっていきます。

このように、完全自動運転車の普及により、自動車のものづくりは大きく変わっていくと予想されます。自動運転車の快適性・安全性、充電の容易さ、従来の車と全く異なるデザインなど、コトづくりも重要になってきます。100年前に自動車が世に出てきて以来の最大の破壊的イノベーションが起こりつつあるといっても過言ではありません。自動車産業は自動車メーカーを中心に広大な裾野産業を抱えています。日本の就業人口の10人に1人は直接・間接に自動車産業に関わっていることになります。ものづくり大国日本にとって屋台骨となっている自動車産業に関わる多くのメーカー、そして新たに自動車産業に参入を目論んでいる各メーカーは、この大きな変革にしっかり先手を打って行きたいものです。


2016年11月

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