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2016年10月01日

持続的成長のための管理会計④
サプライチェーンを最適化し、利益最大化を支援する「S&OP」

収益拡大や生産コスト低減のために、多くの製造業が事業をグローバルに展開しています。「日本で主要部品を作り、海外生産子会社で組み立て、現地で販売する。輸出して他国で販売する。日本に逆輸入する…」このように、様々な形態で分業を行い、最終顧客に製品を販売する中で、企業のサプライチェーンは複雑化しています。事業環境の変化にさらされる中、サプライチェーンを最適化するとともに利益目標の達成と最大化を支援する管理会計についてお話します。

S&OPでサプライチェーンを最適化する

S&OP(Sales & Operations Planning)という、サプライチェーンの最適化および利益計画達成を支援する手法があります。需要予測などから需給計画を確定する際に、販売や生産数など数量情報に加えて予測損益など金額情報も活用する手法です。

これまでのSCM(Supply Chain Management)では、在庫削減や欠品率低下などを目的として、需要予測から需給計画などを数量情報ベースで策定し実行していました。しかし、数量情報ベースでの計画や判断材料の提供では、利益など最大化のための判断材料として不十分な場合がありました。

S&OPでは、まず需要予測から需給の調整を行い、計画を作成します。需要と供給能力とにギャップがあれば、それを埋める方策として、製造の前倒し、販売拠点への配分、納品時期の延期、残業や外注化の検討などを行います。そして、売上、利益、キャッシュフローなど財務的視点での検討を行い、販売や生産などの計画を最終決定します。複数の選択肢がある場合には、利益の多寡など財務的優位性を加味して意思決定を行うことができます。数量と財務面、両方の最適化ができるわけです。

利益目標を達成する

数量情報ベースのSCMにおいては、その評価を在庫日数など非財務KPIで評価していました。利益面での評価は事後的な分析によって行う場合もありますが、十分な説明が難しく、利益目標達成のための改善に結びつけることが困難な状況でした。利益目標と実績がかい離していたならば、その結果を見てSCMとは別に目標利益達成のための検討を行うことが少なくありませんでした。

一方、S&OPでは、需給調整後の販売や、生産計画を実施した場合の利益など、各種の予測を作成します。計画による利益予測を年度や中期の利益目標と比較し、利益目標達成を考慮して追加施策の必要性を計画実行前に検討できます。対応を早めることができるので、利益目標達成のために有用な情報を提供できると考えられます。販売額が不足し利益目標の達成が難しい場合には、販売施策の追加、新製品の企画・投入など収益拡大策を検討します。また、為替、販売単価、原材料調達単価など、価額変動で影響を受ける可能性があれば、影響予測や対応の検討も行います。

サプライチェーン金額情報整備の必要性

S&OPでは、需給計画の確定に利益などの金額情報を利用します。活用にあたってはサプライチェーン上の収益およびコスト情報が必要となります。売上、製造原価(原材料、加工費)、物流費、販促費などです。なお、販売や生産の増減による利益変動などを見るために、コストについては変動や固定の区分も必要です。

グローバル展開している企業で、海外子会社との分業により最終製品を生産し、販売しているのであれば、海外子会社における収益やコスト情報も必要になります。実績額や標準額などに必要な修正を行い使用することが想定されますが、グループでの意思決定に使う情報ですので、計算方法についてはグループで統一すべきです。

海外子会社も含めて、収益やコスト情報を統一し、グループ内で共有し、活用できている企業は多くありません。S&OPを実施する場合には、目的や対象範囲なども考慮して情報を整備する必要があります。ハードルが高いと考える企業も多いかもしれません。しかし、事業のグローバル化が進むと、戦略や施策などを検討する上でも収益やコストなどグループ内情報を正確に把握するニーズは増します。共通のシステムなどを使って、グループでの収益やコスト情報の統一・活用を試みる企業は増えています。できていない企業は、S&OPでの活用も意識してグループでの収益やコスト情報の統一を行ってみてはいかがでしょう


今回は、サプライチェーンの最適化と利益目標達成のための手法であるS&OPについてお話ししました。S&OPは、需給計画などから利益などを予測し、サプライチェーンの最適化とともに、利益目標達成にも有効な手法です。変化の激しい時代の利益目標達成のための手段として検討する価値がありそうです。


2016年10月

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