2024年01月01日
学生スポーツ界で増え続ける合同チームの価値
~共創の時代に必要な学び~
新年あけましておめでとうございます。
昨年は阪神タイガース、ヴィッセル神戸と当社の地元兵庫県のチームが大躍進した年でした。この流れに乗って12月に開幕したラグビーのリーグワンでもコベルコ神戸スティーラーズが優勝してくれるのではないかと期待しています。
さて、昨年末から今年にかけて行われる全国高校ラグビー大会で、高校スポーツ界に新たな1ページが刻まれました。福井県代表として若狭東と敦賀工の「合同チーム」が花園に出場したのです。12月27日に行われた、過去5度の全国優勝を誇る目黒学院(東京第2)との1回戦では7-62と大敗しましたが、花園での合同チームの初トライを奪うなどチーム全員が愚直に、そして補い合って戦う姿に温かい拍手が送られました。
高校ラグビーでは昨年4月から合同チームでの全国大会出場が容認されました。規定では部員14人以下のチームが合同チームを作って出場することが可能とされていますが、福井県内にラグビー部のある学校が3校しかないため、部員3人の敦賀工が部員22人の若狭東に合流することが「特例」で認められました。合同チームは初戦の決勝で若狭に22-10で勝利。敦賀工の選手のラグビーにかける熱い思いを知った若狭東の方から「一緒にやろう」と声をかけたそうです。
長年続く少子化の影響で地方の過疎化も進み、高校でスポーツに打ち込む生徒は確実に減っています。ラグビーだけでなく、野球やサッカーといった人気競技でも人数不足は免れず、合同チームは増加傾向にあります。
高校野球では1997年に日本高野連が、統合や廃校により部員不足が生じる事態を救済するため特別措置を承認。高知の高岡宇佐分校と高知海洋の「連合チーム」が第1号で県大会に出場しました(高校野球での呼称は連合チーム)。その後、2011年の東日本大震災で被災した選手や学校を救済するための措置など、連合チームの大会出場条件の緩和が進み、現在では複数の学校が集まって10人以上になったチームでも出場が認められています。
連合チームの条件緩和が進んできても、実際のチーム運営に必要不可欠なのは、自分の能力と時間を惜しみなく費やす指導者の熱意とチームビルディング能力だと思います。学校の組み合わせをどうするのか、誰が監督をやるかなどは全て当該校同士に任されており、それらを決めるだけでも当該校の指導者は大変です。また、練習場所や時間を調整するのも一苦労です。離れた学校同士なら移動にも時間がかかるうえに、試験など学校行事のスケジュールも別々なので、同じ時間に集まることが難しく、指導者の予定も合わせなければなりません。そんな厳しい環境の中、各校のカラーや個性、価値観の違う選手たちが同じ方向を向いて進むにはどのようにチームを作ればいいか、指導者の苦労は尽きず、相当の熱意がなければ乗り越えられるものではありません。
連合チームのほとんどは甲子園を目指すというよりも、まず地方大会に出場すること、そして1勝することを目標にしています。当たり前のように聞こえますが、この「1勝」という目標を明確にすることがチームビルディングの第一歩として重要なのです。目標を明確に掲げないと選手もバラバラ、各校の指導者同士の協力も中途半端になってしまいます。
連合チームが認められ、以前のように他の部活動の選手を借りてきて人数不足を解消する必要はなく、学校が違っても同じ野球が好きな「野球部」の選手と一緒にプレーできるようになりました。それでも大きな課題は選手間でのモチベーションの違いだといいます。
ある連合チームで主将を務めた選手は、野球で高校を選ぶのではなく受験で受かった公立校に進み野球部に入りましたが、部員が少なく3校の連合チームで出場することになりました。そこで彼は主将として「公式戦2勝」を目標に掲げましたが、他校の部員はそこまでの意欲を持っておらず、なかなか一つにまとまりません。困って監督に相談したところ、練習の始めと終わりに2人一組となって、互いのいいところを30秒ずつ褒め合うという取り組みを導入、それを機にチームのベクトルが一つになっていったそうです。
そんな多様性を認める雰囲気作りもチームビルディングには重要だと言われます。限られた合同練習の貴重な時間の中でも、お互いを否定せず選手同士がフラットなコミュニケーションをとっていくことで、最終的には自分の意見を安心して主張できる「心理的安全性」が確保されチームとして前進できるようになったのでしょう。
これからは様々な垣根を越えて共創していく時代と言われています。例えば、企業におけるプロジェクトチームなども能力や意識が全く異なる「個」が集まって構成されます。そのリーダーは一定の期間内でメンバーの能力や経験を最大限に引き出し、成果を上げなければなりません。これからの共創の時代をリードしていく人材には、合同チームの指導者同様、熱意とチームビルディング能力がますます求められてくるのではないでしょうか。
最後に、選手として大事なことは「個」としての自律だと思います。当然、チーム競技は「ひとり」ではできません。それでもチームを離れた「ひとり」の時間をどう過ごすか。「ひとり」で考え工夫して黙々と努力する、そんな習慣を身につけた選手は必ず大きく成長するでしょうし、どんなチームにでも貢献できます。
違う学校から違う価値観をもった選手たちが集まり、一人ひとりが目標を持って「個」を鍛え、そして同じ目標に向かってチームとして活動する。人数が足りない運動部の救済措置として生まれた合同チームですが、これからの時代において必要なことを学ぶ素晴らしい教育の場なのかもしれません。
2024年1月
ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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