社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年06月01日

石川佳純選手の引退とモチベーション
~自己効力感を高める人材育成~

和菓子・水無月

長い間、女子卓球界の第一人者として活躍してきた石川佳純選手(30)が現役引退を表明しました。全日本選手権の女子シングルスでは2010年に当時最年少の17歳で優勝するなど、5度の日本一に輝きました。2012年ロンドン五輪で日本卓球界史上初のメダルとなる女子団体銀メダル獲得に貢献し、16年リオデジャネイロ(銅)、21年東京(銀)と3大会連続でメダルを勝ち取りました。福原愛選手とともに、そして福原選手の引退後も女子卓球界を盛り上げ、現在のような日本を世界で戦えるレベルまで引き揚げた立役者と言っても過言ではありません。
今年4月11日現在の世界ランクは11位で日本勢では伊藤美誠選手、早田ひな選手に次ぐ3番目。まだまだやれると思われましたが、本人は「自分の中でやり切ったという思いが強く、引退を決意しました」と晴れやかな表情で理由を説明しました。東京五輪後にパリを目指すかどうかを問われた時「(目指すためには)覚悟が必要です。自分の内側から『やりたい、やれる』という気持ちが湧いてきて、ある日、ぱちんと覚悟する瞬間があれば」と話していましたが、その瞬間はやってこなかったようです。

女子ゴルフの元世界ランク1位で米ツアー通算9勝、国内15勝を挙げていた宮里藍選手は31歳の時に「モチベーションの維持が難しくなった」ことを理由に引退を表明しました。引退に至る経緯について「モチベーションの維持が難しく、それを自分の中でどう戻していくか、練習でも追い込めなくなって、望んでいる形ではなかった。理想とする姿がそこにはなかったので、こういう形となった」と説明しました。
これには、女子レスリングの五輪3大会連続金メダルで『霊長類最強女子』と言われた吉田沙保里選手も「私も同じアスリートなのでよく分かる。気持ちがなくなるとツラくなったり、頑張れないと思います」と理解を示しました。
どんな一流選手でも、体の衰えとともに少しずつ自分の思うようなプレーができなくなり、自分のイメージと現実のギャップに苦しみます。それを克服するために最も大切なのがモチベーションなのです。

モチベーションを上げるために、カナダの心理学者アルバート・バンデューラは「自己効力感」を持つ重要さを説きました。「自己効力感」とは、「自分なら頑張ればきっとできる」と強く信じている状態を指します。言い換えれば、自分はできると思い込むことがモチベーションにつながるのです。
これはスポーツの世界だけではありません。ビジネスの世界でも自己効力感が高い人は、「できそうだ」「自分ならやれる」と考え、結果が出るまでポジティブに挑戦し続けます。そして成功すれば、「やっぱりできた」とますますやる気が出て好循環が始まり成長を続けます。

では、企業や組織は自己効力感が高い人材を育成するためにどんなサポートができるのでしょうか。一つ目は成功体験を得るための目標設定です。成功を繰り返すことで、はじめて自己効力感を刷り込むことができるのですが、容易な目標に対して成功を繰り返しても本当の意味での自己効力感にはなりません。頑張って努力した結果、なんとか成功にたどり着くような目標の設定が大切になります。

二つ目は、周りからの評価です。特に上司や先輩社員など自分が信頼している相手からの評価は、自分の良さや特長を再認識でき、効果も絶大だそうです。
育成や指導はとても大変な仕事ですが、部下や後輩の成長は指導者冥利に尽きるものです。「成功したら褒める」「失敗したら励ます」そして「見放さず見守る」、そんな心構えが指導者には必要なのです。

最後に、幾度となく成功体験を得てきた石川選手でも、モチベーションを保つために何よりも大事だったのは「卓球が楽しいからやっている、そこが基本ですね」という“卓球愛”だったと言います。また、子どもたちに伝えたいことを問われ「何事も自分が好きな限りは、できるだけ続けてほしい」とも答えました。
2008年北京、21年東京五輪で金メダルに輝いた女子ソフトボールのエース上野由岐子選手(40)は今なお現役を続けていますが、それには「気持ちがすべてだと思っている。意欲があるからこの年齢でもプレーできている」と言います。そして、そのモチベーションの核となる感情について「ソフトボールが好きって思い。そして投げていて楽しいと感じる思いです」と明かしています。

どんな仕事に対しても、自己効力感を高く持って取り組むには、その仕事を「好き」と思えるかどうかが重要です。「好き」という気持ちがモチベーションの支えとなり、逆境や困難を乗り越えていけます。そこで得た経験と成功体験が、さらに「好き」という気持ちを大きくしていくことでしょう。
もちろん、最初から与えられた仕事を「好き」と思うのは簡単ではありません。だからこそ、個々の能力や適性を見極めたうえで適切な目標を定め、結果を正当に評価してあげることが、次への意欲につながります。こうして徐々にその仕事を好きになっていき、やがて「天職」と思えるまで頑張れる社員がひとりでも増えるように、職場環境を整えていきたいと思います。

2023年6月

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